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海底泥改善セラミックの設置により干潟の微生物の多様性が向上

長崎大学海洋未来イノベーション機構のGregory N. Nishihara(グレゴリー・ナオキ・ニシハラ)教授らの研究グループは、海底の泥(底質)を改善するために開発された炭酸カルシウム系セラミックを大村湾沿岸の干潟に設置し、泥の中の微生物を調べました。セラミックを設置した区画では、設置していない区画に比べて微生物の種類がより多様であり、群集の構成も異なっていることを確認しました。

セラミック設置区では、有機物を分解する細菌に加えて、硫黄の循環に関わる2種類の細菌(硫酸還元菌と硫黄酸化菌)がともに多く見られ、泥を取り除く「浚渫(しゅんせつ)」やきれいな砂で覆う「覆砂(ふくさ)」に代わる環境負荷の小さい底質改善技術を評価するうえで、微生物の観点から底質改善効果を評価する最初の基礎データとなります。本研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

【ポイント】
・底質改善用の炭酸カルシウム系セラミックを大村湾沿岸の干潟に設置し、1年後にセラミック設置区4地点とセラミックを設置していない対照区2地点の泥に含まれる微生物をDNA解析で比較しました。
・セラミック設置区では、対照区より微生物の種類がより多様であり、群集の構成も異なっていました。
・セラミック設置区では有機物を分解する細菌に加えて、硫酸還元菌と硫黄酸化菌がともに多く見られました。泥の中のごく小さな範囲に、酸素が多い環境と少ない環境が共存している可能性を示す結果となりました。
・遺伝子情報にもとづく機能予測では、セラミック設置区で硫黄代謝、環境への応答、バイオフィルム※1形成に関わる機能が相対的に高いと推定されました。
・夏の貧酸素期を含む継続調査と、微生物機能の直接測定が今後の課題となります。

【背景】
長崎県の大村湾は、針尾瀬戸と早岐瀬戸という2本の狭い水路だけで外海とつながる、閉鎖性の高い湾です(図1)。海水が入れ替わりにくいため、毎年夏には海底付近の酸素が極端に少なくなる「貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)※2」が発生します。
陸からの栄養分が増えすぎるとプランクトンが大量に発生し、その死がいが海底にたまります。これが微生物に分解されるときに酸素が消費され、泥は酸素の乏しい状態になり、有害な硫化水素が発生します。こうした底質の悪化は、海底にすむ生き物や漁業に大きな影響を与えます。
悪化した底質の改善するためには、浚渫や、覆砂が主に使われてきました。しかし、これらは費用がかかるうえ、工事で泥が巻き上がり、生き物のすみかが失われるといった課題があります。そのため、低コストで環境への負荷が小さく、実際の海域で使える底質改善技術が求められています。

図1:大村湾の環境悪化の現状。調査地周辺では、黒色化したヘドロやアオサ類の大量発生が確認されている。
湾内では、青潮の発生やナマコ漁獲量の減少も報告されている。

【研究の内容と成果】
本研究で用いたのは、株式会社Santa Mineral(東京都港区)が開発した水質・底質改善用のセラミックです(図2)。炭酸カルシウムと植物由来の腐植物質を主成分とする大きさ1〜3 cmの小石状の素材で、表面付近に局所的な高アルカリ環境(pH 12.3〜12.6)をつくることなどにより、有機物の分解を促すと報告されています。
環境省の環境技術実証(ETV)事業※3では、有機物の多い泥を使った水槽試験で、底質中の有機物量と全硫化物を減らす効果が実証されています(実証番号140-2403)。一方、このセラミックが海底の微生物にどのような影響を与えるかは分かっていませんでした。

図2:株式会社Santa Mineralが開発したセラミック材料を用いた底質改善技術。

そこで、研究グループは2024年3月、大村湾沿岸の干潟に10 m四方の区画を4か所設け、それぞれに約120 kgのセラミックを設置しました(図3)。同じ干潟の約20〜30 m離れた2か所を、セラミックを置かない対照区としました。設置から1年後の2025年3月4日と4月10日の2回、各地点で表層0〜5 cmの泥を5本ずつ(合計60試料)採取し、16S rRNA遺伝子解析※4で微生物群集を比較しました。

図3:設置から11か月後のセラミックの写真。セラミックは形を保ったまま海底の表面に残っており、
表面には海藻(カニノテ属やムカデノリ属)が付着していた。

セラミック設置区では、微生物の多様性を示す2つの指標がいずれも対照区より有意に高い値であり、微生物群集の構成も、設置区と対照区で有意に異なっていました(PERMANOVA、R² = 0.034、P = 0.001)。両区で存在比が有意に異なる微生物のグループ(属)は28見つかり、13属が設置区に、15属が対照区に多く見られました。設置区に多かったのは、有機物を分解する細菌(Lutimonas、Actibacter など)、硫酸還元菌(Desulfofustis)、硫黄酸化菌(Thiolapillus) ※5です。酸素のない環境ではたらく硫酸還元菌と、硫黄化合物を酸化する硫黄酸化菌がともに多かったことは、泥の中のごく小さな範囲に、酸化的な環境と還元的な環境が共存している可能性を示します。研究グループは、この結果を泥全体が酸素の多い状態に変わったのではなく、性質の異なる微小な環境が共存しているものと解釈しています。遺伝子情報にもとづく機能予測※6では、設置区で硫黄代謝、環境の感知と応答、運動性、バイオフィルム形成に関わる機能が相対的に高いと推定されました。対照区では、糖やアミノ酸の代謝といった基本的な代謝機能が相対的に高いと推定されました。
調査時は両区とも底層水に酸素が十分にあり、溶存酸素、pH、水温、泥の粒径にも差はありませんでした。全有機炭素(TOC)は設置区で高い値でしたが、1地点の影響が大きく、この地点を除くと有意差はなくなりました。水槽試験で示された有機物量や硫化物の減少は、潮の干満で海水が出入りする浅い干潟で行った今回の調査では確認されていません。

【展望】
本研究は、このセラミックを設置した海底の微生物群集を初めて調べたものです。浚渫や覆砂に比べて環境負荷の小さい底質改善技術として、このセラミックを評価するための基礎データとなります。今後は、夏の貧酸素期を含む継続的な調査、メタゲノム解析などによる微生物機能の直接評価、セラミック周辺の泥の化学分析が必要です。底生生物への波及効果や、従来技術と比べた費用対効果の検証も、実用化に向けた課題です。

【用語解説】
※1 バイオフィルム:微生物が表面に付着し、集合して形成する膜状の構造。自然環境中では微生物の生息場所として重要な役割を果たす。
※2 貧酸素水塊:海水に溶けている酸素が極端に少なくなった水のかたまり。魚や貝などの生き物がすめなくなる。
※3 環境技術実証(ETV)事業:環境への効果がある技術の性能を第三者が客観的に確認する国の事業。
※4 16S rRNA遺伝子解析:微生物がもつ共通の遺伝子を読み取り、どのような種類の微生物がいるかを網羅的に調べるDNA解析。
※5 硫酸還元菌・硫黄酸化菌:硫酸還元菌は、酸素のない環境で硫酸イオンを使って有機物を分解し、硫化水素をつくる細菌。硫黄酸化菌は、硫化水素などの硫黄化合物を酸化してエネルギーを得る細菌。
※6 機能予測:16S rRNA遺伝子の情報から、その微生物群集がもつと考えられる遺伝子機能を推定する方法(本研究ではPICRUSt2を使用)。実際の遺伝子のはたらきや活性を測定するものではない。

【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
タイトル:Microbial Community Responses to Ceramic Amendment in Coastal Sediments of a Seasonally Hypoxic Bay
著者:Takehiro Kosaka, Md Mehedi Iqbal, Masanaga Nishikawa, Gregory N. Nishihara
DOI:10.1038/s41598-026-74668-0
掲載日:2026年10月14日
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-74668-0

【研究費】
本研究は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING、課題番号 JPMJSP2172)の支援を受けて実施しました。