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「学力の測り間違い」を巡る科学社会学研究

アドミッションセンター木村拓也准教授は,統計学及び教育測定論(テスト理論)の不在と誤謬が教育政策に与えたインパクトを科学社会学の視点から検討している。これまで「入試場面では総合的かつ多面的に評価するべし」「学力調査は全員に調査しなければ正しい結果を得られない」「GPA以外の指標を用いないと学士力は測れない」などのテスト(或いは,測定評価)場面での通説について再検証を行ってきた。

例えば,推薦入試やAO入試の実施根拠とされる「総合的かつ多面的な評価」を望ましいとする考え方は,相関係数や重回帰分析の単純な誤読や初歩的なミスによって,中央教育審議会答申でお墨付きを与えられ,始まったことが分かった。また,「学士力の測定」を謳った昨今の論調も,大学生調査データを用いて検証したところ,ほぼGPA上位者が持っていた能力と一致するため,その測定が二度手間になる可能性があることが分かった。こうした歴史が繰り返される背景には,戦後日本の社会においてテスト(或いは,測定評価)が教育最大の関心事であった一方で,高等教育機関において「テストの専門家」養成コースや授業が一切設けられず,専門家不在のまま数多のテスト(或いは,測定評価)が繰り返し実施されてきた状況があることを指摘した。

これらの研究成果は,『教育社会学研究』(参考1)や『高等教育研究』・『日本テスト学会誌』(参考2)などの有名学術雑誌や高等教育分野のリーディングス(参考3)に収録されるだけでなく,読売新聞(2006年11月)・進研アドのBetween(2008春号・2009年冬号[参考4]・2010年夏号)などの新聞媒体や商業誌でも紹介された。また,2008年12月の中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』や,2010年7月22日の日本学術会議回答『大学教育の分野別質保証の在り方について』の内容にも反映される[参考5]など,今日の「AO入試」・「学士力の(厳密な意味での)測定」を見直す論調の嚆矢となり,政策研究としても高い評価を得るとともに,木村准教授は,日本テスト学会第1回大会発表賞(2007)・第2回大会発表賞 (2009),第4回論文賞(2010),第4回日本教育社会学会奨励賞(論文の部)(2010)を受賞した。

(参考1)教育社会学会論文賞受賞論文
(参考2)テスト学会論文賞受賞論文
(参考3)リーディングス 日本の高等教育1 大学への進学-選抜と接続
(参考4)Between 2009年冬号
(参考5)日本学術会議 大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会 第4回議事要旨