2018年08月08日
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科環境科学領域の重富陽介助教、松本健一准教授、山本裕基助教らの研究グループは、日本の47都道府県における日常生活 (家庭内のエネルギー利用を対象とし、乗用車の利用を除く) に伴う二酸化炭素 (CO2) 排出量を人口動態・エネルギー消費・エネルギー技術の観点から6つの要素に分解し、1990年から2015年までの都道府県ごとの排出変化の特徴を可視化しました (図1)。さらに、その結果を踏まえて、昨今の国際条約であるパリ協定(*1)に沿った2030年度の温室効果ガス削減目標の達成に向けて、現政府が見込む将来の電源構成下で一人あたりエネルギー消費量を現状から削減する必要のある都道府県を特定しました。
特筆すべき研究成果として、解析期間内(1990〜2015年)において、少子高齢化の進行が33道県における家庭からのCO2排出量を減少させる働きをしていた一方で、エネルギー消費形態の改善によって排出量の削減に成功していたのは神奈川県、東京都、山梨県、兵庫県、沖縄県、大阪府、および広島県のわずか7都府県のみであったことが明らかとなりました。さらに、全ての都道府県で等しく家庭部門における2030年の温室効果ガス削減目標(2013年比-39.4%)を達成すると仮定した場合、将来の電源構成の改善(*2)とさらなる少子高齢化(*3) の進行を見込んでも、24都道府県は現状からの一人あたりエネルギー消費量の削減に努めなければ、目標の達成が困難であることが示唆されました。
本研究成果は、国として一律の温暖化対策を講じるのではなく、各都道府県の社会状況に鑑みて優先的に取り組むべき対策方針を個別的に把握する重要性を示すとともに、それらを円滑に実施するための地方行政のイニシアチブ増進に繋がることも期待されます。
本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業 (No. 15K16161, 15K00669, 16H07072, 18K11754, 18K18231) および文部科学省科学研究費助成事業 (16H01799) の支援を受けました。本研究成果は、2018年7月25日(水)にApplied Energy誌に掲載されました。論文は9月13日まで下記URLで無料でダウンロードできます。
(*1)2015年パリで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議 (COP21) において合意された、2020年以降の気候変動に向けた国際的な枠組み。
(*2)経済産業省による平成27年長期エネルギー需給見通しに基づく。
(*3)国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口・世帯数データ (中位) に基づく。
図1. 1990年を基準としたときの1995年から2015年における都道府県別家庭CO2排出量の変化率 (%)を6つの要因別に分解したグラフ。要因はそれぞれ、(a) 世帯数の変化、(b) 世帯主年齢の分布の変化 (例: 県内の高年世帯の割合の増加など)、(c) 平均家族人数の変化、(d) 一人あたり家庭エネルギー消費量の変化、(e) 家庭内エネルギー種の変化 (例: 灯油から都市ガスへの転換など)、(f) 単位エネルギーあたりCO2排出量の変化 (例: 原子力発電所の稼働停止に伴う電源構成の変化など)。なお、1990年は京都議定書の第一約束期間 (2008年から2012年) の温室効果ガス排出削減の基準年にあたる。
論文詳細URL:https://authors.elsevier.com/a/1XRqS15eiesM79
タイトル:Driving forces underlying sub-national carbon dioxide emissions within the household sector and implications for the Paris Agreement targets in Japan
(日本の各都道府県における家庭部門の二酸化炭素排出量の変化要因とパリ協定目標達成に向けた研究)
Applied Energy, 228, 2321-2332 (2018). doi: 10.1016/j.apenergy.2018.07.057.
参考資料:長崎県の位置づけ
(※クリックで拡大 PDF:1.74MB)
より詳しい研究内容情報は以下までお問い合わせください。
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科環境科学学領域 持続可能社会創成分野
助教 重富 陽介
TEL:095-819-2785
E-mail: y-shigetomi@nagasaki-u.ac.jp