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熱帯医学研究所の伊東啓助教らが、日本国内における性接触ネットワークの性質にはスケールフリー性が存在することを明らかにしました。

【タイトル】
「あなたの経験人数は何人?」性接触した人数の分布はスケールフリー


【本文】
熱帯医学研究所 国際保健学分野の伊東啓助教、和田崇之准教授、山本太郎教授は、静岡大学創造科学技術大学院の守田智教授、田村和広氏(博士課程1年)と共に、日本国内における性接触ネットワークの性質として、一人あたりの性接触人数が「冪分布(べきぶんぷ)」に従うことを明らかにしました。これは性接触ネットワークがスケールフリーと呼ばれる特徴を持ち、性感染症が蔓延しやすい状態であることを意味しています。この成果は2019年8月27日に『PLoS ONE』誌からオンライン公開されました。

近年日本でも蔓延が危惧されている梅毒や、エイズの原因となるHIV等は、主にヒトの性的な接触によって伝播する性感染症です。これら性感染症の拡散を予測するためには、ヒトの性接触ネットワークが持つ特性を理解する必要があります。既存の面談調査では、スウェーデン・イギリス・ジンバブエ・ブルキナファソの4か国において、ヒトの性接触する異性の人数の分布が、冪分布(p(k)∼k^(-α+1))に従うという性質が観察されています。この性質はスケールフリーとも呼ばれるもので、多くの人々の性接触は少人数(数人以下)との関係に留まるものの、一部には極めて巨大な性接触ネットワークを持つ人が存在することを意味します。スケールフリーは、ウェブサイトでのハイパーリンクや電話の発信・受信数など、現実世界の様々なネットワークに共通して見出される性質です。スケールフリーの特徴を持つネットワークの中で感染症の伝播が生じる場合には、感染確率が非常に低い場合でも流行が起こりやすくなることが理論的に知られており、性接触にスケールフリー性があるかどうかは公衆衛生において重要な問題です。しかし、日本を含め、これまでに調査研究が行われた4か国以外の国の現状は不明でした。
そこで研究チームはインターネット調査をおこない、日本在住の男女それぞれ2,500人(計5,000人)から「人生でこれまでの累計の性接触人数」と「直近三か月間の累計の性接触人数」についての回答を得ました。その結果、どちらも性別によらずスケールフリー性を持つことが分かりました。また、男性は女性に比べて性経験人数を多く申告するという世界的に共通して見られる傾向が、日本でも確認されました。
本研究は、アジア圏で初めて性接触ネットワークがスケールフリー性を持つことを明らかにしたものであり、このような性質が世界的に高い普遍性を持つことを示したものです。この研究は今後、我が国における性感染症の拡散予測に役立つと期待されます。

Hiromu Ito, Kazuhiro Tamura, Takayuki Wada, Taro Yamamoto and Satoru Morita.
Is the network of heterosexual contact in Japan scale free?
PLoS ONE. 14(8): e0221520, 2019
URL:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0221520

グラフ

※クリックして拡大(PDF:185KB)