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ジンベエザメの体温の安定性についての論文が出版されました

長崎大学海洋未来イノベーション機構と沖縄美ら島財団が管理・運営する沖縄の美ら海水族館、東京大学大気海用研究所の研究グループによるジンベエザメの体温の安定性についての論文がJournal of Experimental Biology誌に掲載されました。
(URL http://jeb.biologists.org/lookup/doi/10.1242/jeb.210286.)

水は熱伝導率および比熱容量が大きく、水中に住む生物の体温は水温に大きく影響されます。そのため、水中に住む生物にとって水温より体温を高く保つことは大きな挑戦です。身体の大きな動物は熱容量が大きいことや体積に対して体表面積が相対的に小さくなることから、体温が変動しにくいという特徴があると考えられます。ジンベエザメは大きなものでは全長12m以上、体重数トンにもなる世界最大の魚類です。ジンベエザメの放流時に行動記録計と体温計を装着し、野外での行動と同時に体温を初めて計測したところ、鉛直移動によって周りの水温が変化してもジンベエザメの体温はゆっくりとしか変化せず、身体が大きいことによる体温の安定性を実証することができました。また、ジンベエザメの体温の上限は海面水温と同等であり、高い体温を保つために自ら産生した熱に依存する内温性ではなく、外界の温度に依存して体温を調節する外温性であることが確認されました。そして、文献を参照して1g未満の魚から本研究で得られた1tを超えるジンベエザメまで幅広い体サイズの魚の全身熱交換係数を比較したところ、外温性・内温性とは無関係に熱交換係数は体重の-2/3乗に比例して小さくなったことから、身体が大きいほどより体温が変化しにくくなることが示唆されました。放流したジンベエザメは外洋で水温3~4℃と非常に冷たい1000mを越えるような深度まで潜っていました。その理由は明らかではありませんが、大きな身体に由来する体温の安定性がそのような潜水を可能にすると考えられます。

Nakamura I, Matsumoto R, Sato k (2020) Body temperature stability observed in the whale sharks, the world’s largest fish. Journal of Experimental Biology, DOI: 10.1242/jeb.210286

行動記録計と体温計を装着して放流されるジンベエザメ
行動記録計と体温計を装着して放流されるジンベエザメ