2020年11月06日
国立大学法人長崎大学教育学部の大庭伸也准教授と同学部学生の福井瑞生さん(2018年度卒業)、寺園康秀さん(2015年度卒業)、高田尚さん(2014年度卒業)の研究グループは、異なる温度条件でゲンゴロウ類幼虫を飼育し、2010年頃から西日本各地で増加・新たな分布記録が確認されるようになったコガタノゲンゴロウの発育下限温度(それ以下では成長できない温度)が他種よりも高く、高温になるにつれて生存率が上昇することを初めて明らかにしました(図1)。
図1.異なる温度条件下で飼育したときのゲンゴロウ類幼虫の羽化率 (クロゲンゴロウの写真は後藤直人氏提供) |
ゲンゴロウ類は池や沼、水田に住み、かつては身近に見られた甲虫ですが、水辺環境の悪化に伴い年々個体数の減少が報告されています。コガタノゲンゴロウは南西諸島、九州や四国の南部に残存していたゲンゴロウの一種で、絶滅の危機が最も高いとされる環境省レッドリストの絶滅危惧IA類に指定されていました。ところが、2010年頃から西日本を中心に一度は絶滅と判断されていた地域での再発見に加え、これまで分布が確認されていなかった地域での発見例が増えてきており、絶滅の危機が小さくなったとして、2012年の環境省レッドリストで絶滅危惧IA類から絶滅危惧?類に下方修正されました。
このコガタノゲンゴロウの増加の謎を解明する目的で、今回の研究では20〜30℃の温度条件下でコガタノゲンゴロウ及びその近縁種のゲンゴロウ、クロゲンゴロウの幼虫を飼育し、成虫になるまでにかかる日数や生存率を調査しました。ゲンゴロウはある程度一定の高い生存率を示したのに対し、クロゲンゴロウは23〜28℃で高い生存率を示しました。ところが、コガタノゲンゴロウは20℃で最も生存率が低く、高温になるにつれて生存率が高くなることが分かりました(図1)。また、ゲンゴロウとクロゲンゴロウの幼虫〜成虫になるまでの発育下限温度がそれぞれ8.7℃と11.1℃であったのに対し、コガタノゲンゴロウは16.8℃であることも分かりました。
このように、高温条件下で生存率が上昇することと発育下限温度が高いという特徴をもつコガタノゲンゴロウが最近増加している背景には、地球温暖化の影響が示唆されます。さらに野外ではゲンゴロウやクロゲンゴロウ幼虫と同様に水生昆虫を主に捕食していることも別の調査(Ohba and Ogushi 2020)で明らかになり、温暖化による本種へのプラスの影響が、他種のゲンゴロウ類との種間競争(別種同士の餌資源や生息場所を巡る競争)にも影響を及ぼすかもしれません。
本研究の成果は昆虫学の国際誌『Entomologia Experimentalis et Applicata』に2020年11月6日に早期公開されました。
Ohba S, Fukui M, Terazono Y, Takada S (2020) Effects of temperature on life histories of three endangered Japanese diving beetle species. Entomologia Experimentalis et Applicata, Early View
http://dx.doi.org/10.1111/eea.12987
Ohba S, Ogushi S (2020) Larval feeding habits of an endangered diving beetle, Cybister tripunctatus lateralis (Coleoptera: Dytiscidae), in its natural habitat. Japanese Journal of Environmental Entomology and Zoology 31: 95-100.
人文社会科学域(教育学系)中等教育講座 理科専攻
大庭 伸也 准教授
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