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国立大学法人長崎大学教育学部と国立大学法人九州大学アジア埋蔵文化財研究センターとの研究連携に関する協定(平成31年3月25日締結)に基づいた研究成果が,国際的に権威のある考古学の学術誌Journal of Archaeological Scienceに掲載されました

   アフリカ大陸で進化したホモ・サピエンスがどのように世界中に拡散したのか。また,世界各地の環境変化に対応しながらどのような集団や社会を構築していたのか。これらは,世界中の人類学者・考古学者にとっての共通した問いです。

   打ち割られた黒曜石は鋭利な刃物となり,ナイフなどの石器を製作する上で欠かせない原材料として世界中の先史時代の遺跡から黒曜石を原材料とした石器が数多く発掘されています。また,日本列島では,約4万年前の後期旧石器時代に人類が定住する過程で,この黒曜石という資源をめぐる活発な人類活動があったとされ,標高1000メートルを超える高山地帯や,海峡を越えた島々にも黒曜石という資源を求め人類集団が活発に進出していったとされています。これは,現在のわたしたちも,石油などのエネルギー資源を求めて様々な場所へ進出し,これらの資源をもとに産業革命が起き,現在の社会や文化が成り立っている状況と同じです。

   では,どのような集団がいつどのように黒曜石という資源を求めて,さまざまな黒曜石原産地へ進出していったのか,また具体的に黒曜石原産地ではどのような人類活動が行われたのか。当時の気候変化の復元を含めた多角的な解析がまさに日本の旧石器考古学研究で実施されつつあります。

   この中で,ある黒曜石がどこの産地で採取され,どこでどのように石器として加工し消費されていったのか。このようなことは,数千点,数万点におよぶ黒曜石製石器の「原産地」を特定し,解析していくことで,ある程度,復元していくことが可能です。では,どのように黒曜石製石器の「原産地」を特定するのか。それは黒曜石に含まれる成分を調べて特定していく,という手法が現在広く国際的に利用されています。

   長崎大学の隅田祥光氏らの研究グループは,信州霧ヶ峰の黒曜石の精密な元素分析を九州大学アジア埋蔵文化財研究センターの研究者とともに実施し,信州霧ヶ峰の黒曜石を特定する手法だけでなく,さらに,信州霧ヶ峰内のより細かな産出地点や地域を特定する手法を新たに開発しました。

   黒曜石の分析法の技術的課題をひとつずつ解決しながら,この手法の実用化に向けた実証実験を積み重ね,日本列島における後期旧石器時代の人類活動の復元を試みようとしています。また,この研究は,九州・長崎県における黒曜石研究ならびに人類史研究のさらなる進展にも,大きく貢献するものと考えられます。

 

◆URL◆

https://doi.org/10.1016/j.jas.2021.105377

 

◆表題◆

Archaeological significance and chemical characterization of the obsidian source in Kirigamine, central Japan: Methodology for provenance analysis of obsidian artefacts using XRF and LA–ICP–MS

 

◆著者◆

隅田祥光(長崎大学教育学部 准教授)

足立達朗(九州大学比較社会文化研究院 助教)

島田和高(明治大学博物館 学芸員)

小山内康人(九州大学比較社会文化研究院 教授)

 

◆掲載誌◆

Journal of Archaeological Science, Volume 129, May 2021, 105377

信州霧ヶ峰地域の黒曜石原産地の分布と化学組成の関係を示した図

信州霧ヶ峰地域の黒曜石原産地の分布と化学組成の関係を示した図