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Research

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新たな肝疾患治療法に道筋をつける研究成果を発表

Biotechnology and Bioengineering誌(2021年7月号表紙)

 

長崎大学大学院 移植・消化器外科学講座(江口 晋 教授)が発表した「Bioengineering of a CLiP‐derived tubular biliary‐duct‐like structure for bile transport in vitro」という論文が、2021年7月号のBiotechnology and Bioengineering誌(※)に掲載され、さらに同誌の表紙も飾りました。この論文は、肝組織内部に人工的に作製した胆道を持たせる可能性を示唆したもので、肝移植を待つ患者さんに対する新しい治療法を確立する道筋に光明をもたらすものです。

 

■研究の概要と成果

現在の肝疾患治療の最も有効な治療法とされている肝移植治療はドナー不足等の観点からすべての患者様へ供給できていません。そこで近年では、新たな治療法として、肝臓あるいは肝組織を生体外で作製し細胞移植させる技術の開発が盛んにされていますが、組織・臓器の構築にはまだまだ多くの課題が残されています。

その一つが、肝臓が作り出す胆汁を排泄するのに重要な役割を担う「胆道」を構築し、肝細胞と連結させる排泄能の獲得です。しかし、これまでの研究では胆管を構築する細胞(胆管上皮細胞)を安定的に確保できず、また胆道構造の構築技術が十分でなかったために、このような技術は確立されていませんでした。

そこで当講座では、肝細胞を小分子化合物を使って幼若化させ胆管上皮細胞を作り出せる人工的な幹細胞(Chemically-induced Liver Progenitor; CLiP)を作製し、胆管様構造を生体外にて構築させるとともに、このCLiP由来胆管構造上と肝細胞を連結させることに成功しました。この技術により、肝細胞が取り込み代謝させた物質(薬剤等)を胆道に排泄するといった生体内で起こっている生命現象(いわゆる薬物代謝能)を生体外にて再現させるとともに可視化することが実現したのです。

 

■研究成果のポイント

今回の研究成果により、肝組織形成における課題の一つが解決され、今後の肝臓構築に対して十分な技術を開発できたことが最大のポイントです。将来的には肝移植を必要とする患者さんに対して肝組織を提供できるようさらに研究を進めています。

 

※Biotechnology and Bioengineering誌

1959年に創刊された生化学工学科学を対象とした査読付き科学雑誌です。2009年、アメリカのSpecial Libraries Associationのバイオメディカル&ライフサイエンス部門は、このBiotechnology and Bioengineering誌を20世紀の生物学と医学において最も影響力のある100のジャーナルの1つとして挙げた、権威ある学術誌です。