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新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの重複感染が 肺炎の重症化と長期化につながる可能性を論文発表

長崎大学感染症共同研究拠点の木下貴明研究員、安田二朗教授らのグループと原爆後障害医療研究所の西 弘大助教、帯広畜産大学渡邉謙一助教による新型コロナウイルスに関する共同研究の成果論文が2021年10月28日にオンライン学術誌“Scientific Reports”に掲載されました。この論文では、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスが重複感染すると肺炎が重症化・長期化する可能性を示しました。

Takaaki Kinoshita, Kenichi Watanabe, Yasuteru Sakurai, Kodai Nishi, Rokusuke Yoshikawa, and Jiro Yasuda: Co-infection of SARS-CoV-2 and influenza virus causes more severe and prolonged pneumonia in hamsters. Scientific Reports, 11:21259, 2021.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-00809-2

新型コロナウイルスとA型インフルエンザウイルスは、どちらも飛沫感染する呼吸器感染症の病原体で、パンデミックを起こすことが知られています。
インフルエンザは世界中で毎年季節性に流行し、多くの患者が報告されますが、昨シーズンは世界的に患者数が激減しました。その理由として、世界的な人・物の移動の制限、マスクの着用、手洗いの励行、密を避ける行動などの新型コロナ対策が功を奏したという考え方に加えて、新型コロナウイルス感染によるウイルス干渉を理由に挙げる専門家もいます。ウイルス干渉は、特定のウイルスが感染すると他のウイルスの感染/増殖を抑制するという現象であり、双方のウイルスの増殖が抑制されることもあります。
木下研究員らは、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスが同一個体に同時感染することができるのか?重複感染した場合、病態はどうなるのかを調べるために双方のウイルスに感受性があり、肺炎症状を呈するハムスタ―を用いて検証実験を行いました。
その結果、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスはそれぞれ単独の感染で肺炎を引き起こしますが、インフルエンザウイルスは感染4日後、新型コロナウイルスは感染6日後に最も重篤な肺炎像を示しました(下図)。一方、同時感染させた場合は、それぞれの単独感染時よりも肺炎が重症化し、更に回復も遅れることが明らかになりました。
また、感染後の肺における双方のウイルス量を調べると、何れのウイルスも単独感染時と重複感染時でウイルス量に差がないことが確認されました。但し、肺の組織病理解析の結果、肺において双方のウイルスは同種の組織・細胞に感染するが、同一の場所では共感染していないことが確認されました。このことは、双方のウイルスは個体レベル、臓器レベル(肺)ではウイルス干渉を起こさないが、細胞レベルでのウイルス干渉は起こり得るということを示しています。つまり、両ウイルスの重複感染と同時流行は起こり得るということを示唆しています。
インフルエンザは通常北半球での流行に先駆けて、季節が逆の南半球で日本の夏の時期に流行することが知られています。今夏も南半球での流行は報告されなかったので、今シーズンも流行しないのではないかと見られていますが、昨シーズン、インフルエンザと同様に感染者数が激減した小児のRSウイルス感染症が今夏は流行し、多くの感染者が報告されたことから、インフルエンザが流行しないという保証はありません。また、今回の研究で新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスが重複感染すると肺炎が重症化・長期化する可能性も示されました。
新型コロナのパンデミックが未だ終息せず、インフルエンザの流行期も控えていますので油断せず、同時流行の可能性もあると考えて対策をとるべきだと考えます。





【本件に関する問い合わせ先】
長崎大学感染症共同研究拠点 教授 安田 二朗
TEL:095-819-7848