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マンボウは防寒対策ができる?水族館との共同研究によって明らかになったマンボウの能力

海面に横たわったマンボウ

長崎大学海洋未来イノベーション機構といおワールドかごしま水族館の共同研究によるマンボウが深海の低水温下で体温低下を抑える能力を持っているという内容の論文がJournal of Experimental Marine Biology and Ecology誌でオンライン早期公開されました。

 マンボウは体温調節を外部の温度環境に依存する外温性の魚類です。そのため、体温を好ましい範囲に保つために環境を選択する行動的体温調節を行います。その代表的な例が“マンボウの昼寝”と呼ばれる横倒しになって海面で浮遊する行動です。以前の研究(Nakamura et al. 2015)において三陸沖でマンボウの行動を調べたところ、マンボウは深海に豊富なクラゲ類を食べるために、海面と深度200mの間を数十分間隔で往復していることがわかりました。深場は冷たく、海面は温かかったことから、“マンボウの昼寝”は冷たい深場で餌を食べた後に体温を回復するための行動だということが示唆されます。実際にその時のマンボウの体温の変化を測ってみると、冷たい深場にいる間に体温が徐々に下がっていき、温かい海面で浮かんでいる間に体温が回復していました。体温が変化する様子を詳しく見てみると、深場で冷えていく時よりも海面で温まっている時の方が体温が速く変化していたので、体温の変わりやすさ(水温との差に対してどのくらい体温が変化するか)を冷却時と加温時で比べてみたところ、冷却時よりも加温時の方が4倍ほど体温が変わりやすくなっているという結果が得られました。速く体温を回復することができればすぐに深場に戻ることができることから、マンボウは効率的に体を温めて体温回復にかかる時間を短縮していると考察していました。
 今回、かごしま水族館で飼育されていたマンボウに深度や水温、体温が記録できる装置を装着して、鹿児島の錦江湾に放流しました。錦江湾は三陸沖と異なる環境ですが、三陸沖と同様に海面から深度200mまでの頻繁な浅深移動が確認されました。また、同時に装着したビデオカメラによって、海面に近いところでクラゲ類を食べる様子も確認できました。三陸沖の環境と比べると錦江湾は海面の水温が高く、深度200m付近でも三陸の海面付近の水温と同じくらいでした。鹿児島のマンボウでも体温の変わりやすさを調べてみると、三陸沖のマンボウと比べて冷却時と加温時で体温の変わりやすさの差は小さく、加温時は三陸沖のマンボウと同等だったのに対し、冷却時では三陸沖のマンボウより冷えやすいという結果が得られました。この結果から、三陸沖のマンボウで見られた体温が変わりやすさが冷却時と加温時とで大きく異なる理由として、“マンボウの昼寝”中に効率的に体を温めているという考察は間違っており、冷たい深場で体温が下がっていくのを抑制しているという解釈が妥当です。そのような能力のおかげで、マンボウにとって冷たくて過酷な環境ですが餌が豊富な深海という場を利用することができるのだと考えられます。


 外温性の魚類の体温は環境温度に依存していますが、ただ単に周りの温度によって温められたり冷やされたりするだけでなく、ヒトで言えば寒い時に鳥肌が立って熱を逃しにくくするような何らかの体温が下がるのを抑える能力を持っているようです。このような能力がどのような生理的調節によるものかはまだわかっていませんが、本研究のように体温を直接計測するアプローチによって魚類の温度環境との付き合い方について新たな展開が生まれることが期待されます。





■原著論文
Nakamura I, Yamada M (2022) Thermoregulation of ocean sunfish in a warmer sea suggests their ability to prevent heat loss in deep, cold foraging grounds. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, DOI: 10.1016/jembe.2021.151651
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022098121001416

■参考文献
Nakamura I, Goto Y, Sato K (2015) Ocean sunfish rewarm at the surface after deep excursions to forage for siphonophores. Journal of Animal Ecology 84, 590-603

■問い合わせ先
長崎大学海洋未来イノベーション機構環東シナ海環境資源研究センター
中村 乙水
E-mail: itsumi*nagasaki-u.ac.jp(*を@に変換して下さい)
Tel: 095-850-7314