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世界初プリオン病未診断例、人体解剖実習前の御遺体から発見。 米国医学専門雑誌「New England Journal of Medicine」誌に掲載されました

大学院医歯薬学総合研究科感染分子解析学の西田教行教授、中垣岳大助教、金子美穂助教、肉眼解剖学の弦本敏行教授らの研究グループは、医学部・歯学部で毎年行われる人体解剖実習に用いるためにご提供いただいた御遺体のプリオン検査方法を確立し、スクリーニング事業を開始しました。今回、未診断例を発見し、その成果が「New England Journal of Medicine」誌に掲載されました。

■発表のポイント
・世界で初めて、プリオン病未診断例を解剖実習前の御遺体から発見しました。
・本研究の成果は、解剖実習や医療の安全性の向上に貢献することが期待されます。

【背 景】
プリオン病の原因となる病原体は「プリオン」とよばれる感染性タンパク質からなります。狂牛病(ウシのプリオン病)のように食肉を介して感染した例や、医療(硬膜移植手術など)によって感染した例が過去に報告されています。一方、多くの患者さんは高齢で発症し、急速に認知症が進行する孤発性プリオン病と呼ばれるタイプで、加齢に伴って起こる自然発生的な疾患です。1年間に人口100万人の都市で約2人が発症する極めて稀な疾患ですが、100%致死性であり、難病の中の難病と言われています。実験動物を用いた研究では、発症前からプリオンが脳組織に蓄積していて感染性も有することがわかっていますが、ヒトでは発症前に他の病気で亡くなった方や発症しても典型的でなく診断が困難な例などが、どの程度存在するか正確にはわかっていません。またプリオンは一般的な滅菌法では不活化されず、ホルマリンにも抵抗性です。このような理由から、御遺体にプリオン病未診断例が含まれていた場合、解剖実習に臨む学生やスタッフがプリオン感染の危険にさらされることになります。
同グループは解剖実習における安全性の確保を目的として、2020年度から解剖実習前の御遺体脳組織のプリオンスクリーニング検査を実施してきました。なお、医学部および歯学部における解剖学教育は、篤志の方からの献体によって支えられています。

【結 果】
2020年度は36体、2021年度は39体の御遺体のプリオンのスクリーニング検査を行いました。2020年度は全て陰性でしたが、2021年度は1例で陽性反応が認められました(図1)。
病理学的解析の結果、大脳新皮質にプリオン病に特徴的な空胞病変が多数認められ、プリオン病と判定されました(図2)。



【今後の展望】
検査に用いたReal Time Quaking Induced Conversion (RT-QuIC)法は2011年に同グループが開発に成功し、今や世界でスタンダードになりつつある高感度のプリオン検出方法です。(Atarashi et al., Ultrasensitive human prion detection in cerebrospinal fluid by real-time quaking-induced conversion. Nat Med. 2011 Feb;17(2):175-8. ) 今回はホルマリン処理後であっても検査が有効であることを証明したことになり、世界中の医療関係者にその情報をもたらしたことは大きな意味があります。本検査を開始して2年目で、わずか80例ほどを検査して、世界で初めて解剖献体の未診断例が発見されました。全国で年間約3000体の御遺体が実習に使用されていると考えられることから、正確な未診断例の頻度を明らかにするには、今後、他大学と連携して全国的検査体制を構築し、検査数を増やす必要があります。このような研究は解剖実習の安全性を高めるのみならず、未診断例の頻度を明らかにすることで、手術前や臓器提供前にプリオン検査を行う仕組みを構築して、先進医療の安全性向上に寄与することにつながります。




■論文情報
Takehiro Nakagaki, Miho Kaneko, Katsuya Satoh, Kiyohito Murai, Kazunobu Saiki, Gen Matsumoto, Keiko Ogami-Takamura, Kazuya Ikematsu, Akio Akagaki, Yasushi Iwasaki, Toshiyuki Tsurumoto and Noriyuki Nishida. Detection of Prions in a Cadaver for Anatomical Practice. N Engl J Med. in press.
リンク先:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2204116?query=featured_home



本研究は下記の支援を受けて実施されました
・厚生労働科学研究「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」(H29-036)
・JSPS科研費 JP21K07276
・武田科学振興財団 医学系研究助成