HOME > Research > 詳細

Research

ここから本文です。

致死性の高いアルゼンチン出血熱の病原体であるフニンウイルスに対するファビピラビルの抗ウイルス効果と作用機序に関する論文が 学術誌『PLOS Pathogens』に掲載されました

高度感染症研究センター・新興ウイルス研究分野/熱帯医学研究所・新興感染症学分野のVahid Rajabali Zadeh研究員、安田二朗教授らのグループによるフニンウイルスに対するファビピラビルの抗ウイルス効果に関する論文が2022年7月11日にオンライン学術誌“PLOS Pathogens”に掲載されました。

エボラウイルス病やラッサ熱とともにわが国で一類感染症に指定されている南米出血熱の一つであるアルゼンチン出血熱は、毎年アルゼンチンで数十~数百人、多い時で数千人の患者が報告されており、致死率10-30%と言われています。この感染症の病原体はフニンウイルスで、ウイルスを保有する野ネズミとの接触や排泄物・分泌物等で汚染された食物の摂取などによりヒトに感染すると考えられています。


アルゼンチンでは、15歳以上を対象に弱毒生ワクチン(Candid#1)の接種が流行地で実施されており、近年患者数が減少傾向にあるものの、治療薬に関しては未だに効果的なものが開発されていません。そこで、同グループは、様々なウイルスで抗ウイルス効果が確認されているファビピラビル(富士フイルム富山化学:製品名アビガン)がフニンウイルスに対しても抗ウイルス効果があるのかを調べました。

フニンウイルスはBSL-4の病原体であるため、BSL-2実験室でも使用可能なワクチン株(Candid#1)を用いて培養細胞レベルでファビピラビルのウイルス増殖阻害効果を検証した結果、効率良く阻害することが確認されました。ファビピラビルに対する薬剤耐性ウイルスの出現可能性についても検証するために、ファビピラビル存在下でCandid#1株を連続継代したところ11代目で耐性ウイルスの出現が確認されました。この耐性ウイルスのゲノムには2か所にアミノ酸置換を伴う変異が存在しており、一つはウイルスRNAポリメラーゼの変異であり、この変異によりポリメラーゼの遺伝子複製の精確性が高くなっていることがわかりました。
このことは、本来、ファビピラビルがポリメラーゼによるウイルス遺伝子複製においてエラー(変異)を誘発し、機能的なゲノムの複製を阻害しているのに対して、変異により精確性を向上させることによりエラーが起きなくなり、結果としてファビピラビルの抗ウイルス効果に対して耐性になっていることを示唆しました。
さらに、抗ウイルス薬として他のウイルス感染症に使用されているリバビリンやレムデシビルのフニンウイルスに対する抗ウイルス効果も検証し、ファビピラビルと併用することにより、それぞれ単独で使用するよりも低濃度で高い抗ウイルス効果(相乗効果)が見られることも明らかにしました。加えて、これらの薬剤の併用は薬剤耐性変異ウイルスの出現を顕著に抑制することも確認されました。

以上の成績は、ファビピラビルとリバビリンあるいはレムデシビルを用いた併用療法が、耐性ウイルス出現のリスクを著しく低減させ、尚且つ低用量で効果的なアルゼンチン出血熱に対する治療法となる可能性を示唆しました。


長崎大学のBSL-4施設でBSL-4実験が実施可能な状況になった際には、動物実験等で治療効果の評価をさらに進めることが可能になると期待しています。

■論文情報
Zadeh VR, Afowowe TO, Abe H, Urata S, Yasuda J.: Potential and action mechanism of favipiravir as an antiviral against Junin virus. PLoS Pathogens, 18(7): e1010689, 2022.
フニンウイルスに対するファビピラビルの抗ウイルス薬としての可能性とその作用機序
URL: https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1010689

尚、本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」から研究費のご支援を得て実施したものです。