2023年11月27日
長崎大学教育学部の大庭伸也准教授と同大学院院生の平石直樹(2023年3月修了)と広島修道大学の鈴木智也助教の研究グループは、詳細な遺伝子解析を実施し、全国で最も明滅が早い五島列島型(1秒1回明滅タイプ)ゲンジボタルが九州本土に分布する西日本型(2秒1回明滅タイプ)と遺伝的に分化しつつある集団であること、他の離島に比べて西日本型との遺伝的交流の頻度が低いことを明らかにしました。
これは、ゲンジボタルの明滅パターンが異なると、集団間での雌雄間のコミュニケーションが成立しにくいこと、五島列島のみに分布する集団が他とは異なる遺伝的特徴を持つことを示唆します。
五島列島型ゲンジボタルは2020年に発表された( https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science193.html )、全国で最も早いリズムで明滅する五島列島(福江島、久賀島、若松島、中通島、宇久島に分布)の固有集団です。ミトコンドリアDNAのCOII領域のみの解析で、五島列島型は九州本土の西日本型とは異なる集団であることが示唆されていました。一方、五島列島の最北端で、最も距離的に本土に近い宇久島集団(明滅は1秒1回の五島列島型)は九州本土個体群(2秒1回明滅タイプ)に含まれることから、その遺伝的関係を明らかにする必要がありました。
今回、ミトコンドリアDNAのND5領域を解析に新たに加えるとともに、次世代シーケンサーを使用したGRAS-Di法によって得られた多数の核DNA多型情報を使って五島列島集団と九州本土集団の関係性を詳細に調べました。その結果、ミトコンドリアDNAの解析結果から、五島列島集団は約100万年前に九州本土集団と遺伝的に分化したと推定されました(図1)。また、核DNAの多型情報の解析からは、宇久島集団は九州本土集団と区別され、五島列島集団に含まれること(図2)を明らかにしました。
図 1 ミトコンドリアDNA COII および ND5 領域の部分配列に基づく分岐年代の推定結果 |
図 2 核DNAの多型情報を基にした遺伝的集団の推定結果。 円グラフの色の違いは、集団がもつ遺伝的特徴の違いを示している。 |
これらの結果は、九州本土集団から五島列島に進出した集団の中で、1秒1回明滅が進化し、その後、九州本土の2秒1回明滅の西日本型集団とは遺伝的交流がほとんど生じていない状態(図3)で、独自の集団に分化する途中段階であることを示すものです。
図 3 核DNAの多型情報を基にした集団間における遺伝的交流の頻度の推定結果。 推定値は1〜0の値で算出され、1に近いほど頻繁に遺伝的交流が生じていることを示す。 五島列島集団は他の集団との遺伝的交流が極めて少ないことがわかる。 破線は明滅パターンを分けるライン。 |
本研究の成果は英国の進化生物学の専門誌『Biological Journal of the Linnean Society』に2023年11月22日に掲載されました。
※遺伝的交流…異なる集団の個体間で遺伝子の交換(交配)をおこなうこと
※ミトコンドリアDNA…細胞小器官であるミトコンドリア内にあるDNAのこと
※GRAS-Di法…次世代シーケンサーを用いて、DNAの中に散在する1塩基の多型情報を大量に取得する手法
■論文情報
Suzuki T, Hiraishi N, Ohba S (2023) Fine-scale phylogeography of the Japanese Genji firefly. Biological Journal of the Linnean Society, https://doi.org/10.1093/biolinnean/blad161
■論文(英文)ダウンロード
URL: https://doi.org/10.1093/biolinnean/blad161