2024年05月10日
■概 要
長崎大学病院 移植・消化器外科の江口晋教授、曽山明彦准教授らは、長崎大学が富士フイルム株式会社の協力を得て研究・開発を行ってきた、手術後に撮影した X 線画像から高感度に手術用ガーゼに含まれている鉛線を検出する技術を搭載したアプリケーション型ソフトウェア ( 富士フイルム株式会社製 ) を用いて、前向き臨床研究を行いました。2020 年 12 月 7 日〜 2022 年 2 月 14 日の期間の長崎大学病院における手術実施例において、実際に手術室で術後に撮影された X 線画像を AI に読影させ、その有効性を検証した本研究は、 AI 技術を用いた体腔内異物検出システムの有用性を示した世界初の実臨床使用研究として、 Journal of the American College of Surgeons に掲載されました。
■ポイント
●長崎大学はこれまで、富士フイルム株式会社の協力を得て、 AI 技術を用いてX 線画像から術後の手術用ガーゼ体内遺残確認作業を支援する技術の研究・開発を実施してきた。長崎大学が同技術を搭載した X 線撮影装置(体腔内異物検出システム)を使用した前向き臨床研究を行い、その結果がJournal of the American College of Surgeons (米国外科学会の機関誌 ) に掲載された。
●実臨床での診断精度は、システム開発時の診断精度とほぼ同等の結果であった。
●本システムと医師による読影を組み合わせることでより効果的な術後異物遺残予防が期待できる。
1. 研究の背景と目的
術後の体腔内異物遺残は約 1/20000 の割合で発生しており、ガーゼ遺残はその約半数以上を占めると言われています。ガーゼ遺残の予防策として、従来ガーゼカウントやダブルチェック、術後の X 線撮影を行っていますが、ヒューマンエラーが原因となりますので完全にはなくすことが出来ていません。
長崎大学は富士フイルム株式会社の協力を得て、手術後に撮影した X 線画像から高感度に手術用ガーゼに含まれている鉛線を検出する技術の研究・開発を行ってきました。同技術を搭載したアプリケーショ
ン型ソフトウェア ( 富士フイルム株式会社製 ) の有効性を明らかにするために、長崎大学病院にて前向き臨床研究を行いました。
2. 研究手法
従来行っている手術後にガーゼチェック目的に撮像する X 線画像を、 AI システムを搭載した X 線撮像装置によって行い、ガーゼの鉛線様の陰影を AI が検出します。検出された画像を解析し、 AI 読影の精度や検出パターンの解析を行いました。
3. 研究による知見
この研究では、 1053 枚の術後レントゲン画像を AI により判別しました。実際にガーゼが遺残した症例はありませんでした。術後 X 線画像を AI が判断した結果、ガーゼの可能性があると判定したのは 150 枚で、実際にはガーゼの遺残はなかったことから過検出であったと言えます。 AI によってガーゼの可能性があると判断された X 線画像には、手術用のクリップやドレーン、腸管切除用のステイプラーなどで、ガーゼの鉛線と形態が類似しているものが含まれていました。 AI による特異度 * は85.8%であり、
感度 * * は実際にガーゼ遺残がなかったため算出不可でしたが、システム開発時の特異度と差はなく、実臨床においても有効に活用できるものであると考えます。
* 特異度: AI が正しくガーゼ遺残なしと判定したものの割合
* * 感度: AI が正しくガーゼ遺残ありと判定したものの割合
ガーゼ遺残は実際には 0 であったため、 0 となってしまう。
4. 臨床上の示唆
本研究結果は、 AI による X 線画像読影が術後異物遺残を防止するための有効な手段となり得ます。従来、医師の目のみで行っていた作業を AI による異物認識支援を行うことで、異物遺残防止のために更に効果的なシステムの確立につながると考えられます。また、新たな器材を投入する必要がなく、従来行っていた画像読影の手順の中に組み込むことができるため、費用的な面や診療時間の著明な増加もなく導入することが出来ます。
5. 出版の詳細
“Clinical Validation of Computer-Aided Diagnosis Software for Preventing Retained Surgical Sponges”は『 Journal of the American College of Surgeons 』の 2024 年5月号に掲載されています。
https://journals.lww.com/journalacs/abstract/2024/05000/clinical_validation_of_computer_aided_diagnosis.11.aspx
Kurisaki K, Soyama A, Hamauzu S, Yamada M, Yamaguchi S, Matsuguma K, Kerkhof E,
Fukuda T, Toya R, Eguchi S. Clinical Validation of Computer-Aided Diagnosis Software for Preventing Retained Surgical Sponges. J Am Coll Surg. 2024 May 1;238(5):856-860.
■関連リンク
▶長崎大学大学院 移植・消化器外科 第二外科
https://www.med.nagasaki-u.ac.jp/surgery2/
▶研究開始時のニュース
(長崎大学と富士フイルムAI技術を活用した術後遺残物確認支援の研究を推進)
https://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/kouhou/topics/2020/4/3/index.html