2025年01月07日
長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻 リウマチ・膠原病内科学分野の古賀 智裕 講師と研究チームは、慢性疲労症候群の症例における新規ADCK1遺伝子変異の同定と5-アミノレブリン酸(5-ALA)/クエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)治療の有効性を見出し、その論文がImmunological Medicineに掲載されました。
この研究成果をきっかけに、原因不明だった慢性的な疲れの仕組みが少しずつ明らかになってきており、今後、似たような症状で悩む多くの患者さんの治療に役立つことが期待されます。
本研究成果のポイント |
1、原因不明の強い疲れが続く病気(慢性疲労症候群)の患者さんの遺伝子を調べ、体のエネルギー生産に関わる遺伝子に変化があることを発見しました。
2、体のエネルギー生産を助けるユビキノン(医療用医薬品)と5-ALA/SFC(機能性食品)を組み合わせることで、慢性疲労症候群の症状が大きく改善しました。
3、この発見は、原因がよくわからなかったこの病気の解明と治療に新しい道を開くものです。
本研究の背景 |
私たちの体の細胞の中にある「ミトコンドリア」という小さな器官は、摂取した食物を体内で利用することのできるATPというエネルギーに変換する “エネルギー工場”です。この“エネルギー工場”が上手く働かないと、体が疲れやすくなったり、疲れが取れにくくなったりします。
今回、研究の対象とした疾患は、休んでも疲れが取れず、体を動かしたり頭を使ったりすると症状が悪化してしまう「慢性疲労症候群」と呼ばれる病気です。これまで原因がよくわからず、効果的な治療法を見つけることが難しい病気でした。
新しい発見の内容 |
今回、この慢性疲労症候群を患っている35歳の女性の患者さんを詳しく調べたところ、「ADCK1(エーディーシーケーワン)」という遺伝子に変化が見つかりました。この遺伝子は、体の“エネルギー工場”であるミトコンドリアの働きを調整する大切な役割を持っていると考えられます。
本研究では、慢性疲労症候群を患っている患者さんにユビキノン(医療用医薬品)と5-ALA/SFC(機能性食品)を組み合わせて使ったところ、症状が改善する良い変化が見られました。
患者さんの治療経過 |
1.量を少しずつ調整して投薬
・ユビキノンは、最初は1日30mgという少ない量から始め、体の様子を見ながら徐々に増やし、最終的には1日120mgまで増やしました。5-ALA/SFCも、最初は1日100mgから始めて、段階的に増やしていき、最終的に1日400mgになりました。この処方薬と機能性食品の量を慎重に調整することで、最も良い効果を得ることができました。
2.症状の改善
・疲れの程度を0から20点で評価する検査(FACIT-Fという検査)では、治療を始めた時は3点でしたが、4年後には19点まで良くなりました。
・買い物に出掛けたり、友達と会えたりできるなど、普段の生活が送りやすくなりました。
3.5-ALA/SFCの安全性と効果を確認
・4年間飲み続けても、副作用は出ませんでした。
・試しに5-ALA/SFCの量を減らしてみたところ、症状が悪くなり、また増やすと良くなったことから、確かに5-ALA/SFCが効果を発揮していることが分かりました。
ユビキノンおよび5-ALA/SFCの投与量とFACIT-Fスコアの推移 (2020年9月~2024年9月) |
遺伝子の変化について |
・健康な人と患者さんの遺伝子を比べると、患者さんの遺伝子には1文字分の"欠け"があることがわかりました。この変化は、本の文章から1文字が抜け落ちて、その後の文章の意味が全く変わってしまうようなものです。
・これにより、“エネルギー工場”であるミトコンドリアの働きを支える大切なタンパク質がうまく作られなくなり、体の疲れやすさにつながったと考えられます。
ADCK1遺伝子検査で見つかった変化 上:健康な方の遺伝子の並び方 下:患者さんの遺伝子の並び方 患者さんの並びでは、丸印の部分で1文字分の遺伝子情報が抜け落ちており、 その後ろの部分で2重の波形が見られます。 |
この発見の意義 |
・この遺伝子の変化を見つけたことで、なぜ疲れが続くのかという謎の一つが解明されました。
・体のエネルギー生産を助ける医療用医薬品と機能性食品の併用が効果を示したことで、同じような症状で悩む患者さんの治療に役立つ可能性があります
・5-ALA/SFC による4年間の治療で、副作用もなく、安全に使えることもわかりました
参 考 |
【5-ALAについて】
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は、私たちの体の中で自然に作られる重要なアミノ酸の一つです。
特徴として
●体の中での役割
・細胞の中にある「ミトコンドリア」という“エネルギー工場”で重要な働きをしています。
・体のエネルギー生産に必須の物質です。
・植物や動物の細胞でも同じように作られています。
●安全性:
・日常的な食事からも摂取している自然な成分です。
・10年以上前から健康食品や化粧品などで広く使用されています。
・安全性が十分に確認されています。
●医療での活用:
・がんの診断やミトコンドリア病の治療をはじめ、様々な医療分野で研究されています。
・最近では新型コロナウイルス感染症の治療や後遺症への研究でも注目されています。
・マラリアなどの感染症治療薬としての開発も進められています。
・SFCのような鉄や亜鉛などと併用することで効果が上がることが報告されています。
論 文 情 報 |
タイトル:A novel frameshift mutation in ADCK1 identified in a case of chronic fatigue syndrome successfully treated with oral 5-ALA/SFC
著 者:Tomohiro Koga, Kiyoshi Kita, Junko Okumura, Koh-ichiro Yoshiura, Atsushi Kawakami
掲 載 誌:Immunological Medicine
【研究機関】
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
https://www.mdp.nagasaki-u.ac.jp/
【共同研究機関】
長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科
https://www.tmgh.nagasaki-u.ac.jp/
長崎大学熱帯医学研究所
https://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/nekken/
長崎大学原爆後障害医療研究所
https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/index-sjis.html
【研究支援】
本研究は長崎大学病院倫理委員会の承認(承認番号:23061903)のもと実施されました。