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アルメニアの査読付き機関誌「Proc. YSU B: Chem. Biol. Sci.」にEDTAの逸話的知識に関する内容が掲載されました(EDTA=エチレンジアミン四酢酸)

 エレバン国立大学(Yerevan State University, YSU)が1967年に創刊し、2004年以降はオープンアクセス化されている電子ジャーナル「Proceedings of the YSU B: Chemical and Biological Sciences(エレバン国立大学論叢B:化学・生物科学)」に、野口 大介 技術職員(総合生産科学研究科教育研究支援部)が調査した内容が、査読付きプロシーディング論文(Proceedings paper)として掲載されました。
 エレバン国立大学(Yerevan State University, YSU)は、1991年にソ連から独立したアルメニア共和国(通称アルメニア)の首都に位置する最も伝統ある最大の公立大学です。

  エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、複数の配位座を有する多座配位子として高校化学の発展的話題の一つとして学ばれるほか、理工系大学における分析化学や生化学の実験で用いられ、電気的に中性な分子というよりはむしろ双性イオンとして存在する可能性が論じられています。
https://academist-cf.com/journal/?author=590

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の構造式

 ただ、双性イオン化したEDTA自体の結晶構造解析を最初に報告した研究が、いつ、誰によって行われたのかについて、その後の様々な文献を精査してもなお曖昧な点が残っていたため、改めて調査が開始されました。
 その結果、EDTAが双性イオンであることを報告した最初で最重要の論文が、困難な確認の末に特定されました。それは、中国の二人の研究者(卢云锦・邵美成)によって中国語で執筆され、英語で書かれた概要が付された1961年の論文でした(Lu, Shao, Acta Phys. Sin. 1961, 17, 304)。そして1962年には更に同じ研究者らが全てロシア語で著した論文も公刊されていました(Lu, Shao, Sci. Sin. 1962, 11, 469)。
 しかし、1961年の論文は後の研究論文での引用が確認できず、かつ、残念なのは、1962年の論文はこれまでに何度か引用されていましたが、その際、いずれも不正確な書誌情報が記述されていました。
 その後、ソ連(当時)の研究者らがEDTA自体を含む非荷電性、陰イオン性、陽イオン性アミノアルキルカルボン酸の結晶構造を総説していますが(Shkol'nikova, Porai-Koshits, Russ. Chem. Rev. 1990, 59, 40)、1961年の論文は疎か、ロシア語で著された1962年の論文の方さえも引用されませんでした。
 もっと不可解なのは、中国の研究者らが2003年の論文で、EDTAそれ自体の結晶構造を再発見とは認識せずに報告していることです(Wang, et al., Wuhan Univ. J. Nat. Sci. 2003, 8, 1131)。
 このような逸話的知識に関する本調査報告は、今後の化学教育のみならず、関連する科学・技術における貴重なリソースの一つになることが期待されます。

■論文情報
タイトル:EPISODIC KNOWLEDGE ON FIRST AND FOREMOST CRYSTALLINE STRUCTURAL REPORT OF ETHYLENEDIAMINETERAACETIC ACID
著 者:野口 大介(長崎大学大学院総合生産科学研究科教育研究支援部 技術職員)
掲載誌:Proceedings of the YSU B: Chemical and Biological Sciences, Vol. 58, No. 3, pp. 166–170 (2024)
URL:https://journals.ysu.am/index.php/proceedings-chem-biol/article/view/vol58_no3_2024_pp166-170
DOI:10.46991/PYSUB.2024.58.3.166

■謝 辞
本研究の一部は長崎大学卓越大学院プログラム2024年リサーチグラントの助成を受けた。