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離島地域におけるドローンを活用した処方薬配送が技術的に可能であることを実証

 長崎大学は、よりよい離島・へき地医療を住民さんに提供するため、先進技術を活用した様々な遠隔医療の取り組みを進めています。
 この度、経済産業省の令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(ヘルスケアビジネス創出推進等事業) 地域ヘルスケアビジネス水平展開等推進事業(※1)の採択事業として、長崎県五島市においてドローン物流サービス事業を行っているそらいいな株式会社(※2)、ならびに五島市国保健康政策課、久賀診療所、玉之浦診療所、福江薬局と協働して、「離島地域におけるドローンによる医薬品配送の実証研究(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医学系倫理委員会 承認番号:23072804)」を行い、ドローンによる処方薬配送は技術的に可能であることを証明しました。その論文が日本プライマリ・ケア連合学会の英文誌である『Journal of General and Family Medicine』に掲載されましたのでお知らせします(2025年1月Web先行公開)。

【本研究成果のポイント】
1.ドローンによる処方薬の配送が技術的に可能であることを実証。

2.レベル4飛行(有人地帯の目視外飛行)が可能になれば、診療所の隣や巡回診療車、患者宅の敷地内への直接配送が可能となり、利便性向上が期待される。


【研究の背景】
 日本を含む多くの国では、医薬分業(医療機関で直接薬を受け取るのではなく、院外処方箋を調剤薬局に持参し、そこで薬を受け取る仕組み)が推進されています。医薬分業により、患者さんは薬剤師の関与のもと、より安全に薬物療法を受けられ、治療効果の高まることが期待されます。2019年時点で、全国で行われている処方の75%が院外処方と報告されています(※3)
 しかし、多くの離島やへき地には薬局がなく、そういった地域の診療所では医薬品を備えておき、薬物治療を要する患者さんへの院内処方を行っていることから、薬剤師が関与できないことに加え、処方できる薬の選択肢が限られてしまうといった問題が生じます。また、最近ではオンライン服薬指導(離れたところにいる薬剤師が、遠隔医療の技術を用いて患者さんに服薬指導を行うこと)が可能となりましたが、薬の配送には主に郵便が用いられるため、薬が患者さんの手元に届くまで時間がかかってしまうという課題がありました。
 そこで今回、近隣に調剤薬局がない長崎県五島市のへき地診療所(五島市国民健康保険久賀診療所、および玉之浦診療所)において、ご協力頂ける患者さんの処方箋を、五島市の中でも人口の多い福江地区にある調剤薬局(福江薬局)に送り、福江地区からそらいいな株式会社の固定翼型ドローン(無人飛行機)を用いて患者さんに医薬品を届ける、という実証研究を行いました。

【実証研究の概要】
 本実証研究は、2023年10月~12月に、五島市国民健康保険久賀診療所(2023年10月3日から11月2日までの休診日を除く全16日間)と玉之浦診療所(2023年11月6日、20日、12月4日、18日の4日間)において行われました。

●実証研究は以下の手順で行われました。
1.診療所からFaxで福江薬局に処方箋を送付(原本は後日発送)
2.各診療所において、福江薬局の薬剤師によるオンライン服薬指導を実施
3.福江薬局において、薬を調剤
4.調剤された薬をそらいいな株式会社のドローン発着拠点に車で配送
5.ドローン発着拠点より、各地区の医薬品投下地点に固定翼型ドローンを用いて医薬品を配送(飛行時間は久賀地区まで約10分、玉之浦地区まで約35分)
6.予め医薬品投下地点にそらいいな株式会社のスタッフが待機し、そこから患者さん宅まで車で医薬品を配送

 これらは、事前に関係機関と協議を行った上で、医薬品医療機器等法、航空法や、ドローンによる医薬品配送に関するガイドラインを遵守して行われました。また、実証研究の時点でそらいいな株式会社の固定翼型ドローンはレベル3飛行(無人地帯の目視外飛行)までの認定を受けていたため、レベル4飛行(有人地帯の目視外飛行)は行えなかったことから、ドローンによる医薬品配送は有人地帯を避けて(海上を迂回する形で)行われ、医薬品投下地点も海岸沿いに限られました。さらに、船舶上空の飛行を避けるため、運航ダイヤの制限がありました。

 実証研究終了後、患者さんやご協力頂いた各医療施設のスタッフの皆様に満足度調査を致しました。

【実証研究の結果】
 のべ62名の方に、実証研究へのご参加を頂きました。このうち玉之浦診療所の2名の患者さんについては、当日14m/秒を超える強風のためドローン配送を行えず、陸送での処方薬配送を行いました。ドローン飛行に伴うトラブルや、医薬品の品質等にかかわるトラブルはありませんでした。診察終了から薬が手元に届くまでの所要時間は、ドローン運航ダイヤの制約から調剤直後の発送ができなかったため、ほとんどの患者さんで1時間以上を要しました。
 満足度調査では、80%を超える数の患者さんから、オンライン服薬指導について好意的な意見を頂けた一方、「診療直後に病院で薬を受け取れた方が楽」という意見も聞かれました。診療所のスタッフさんからは、医薬品の発注や在庫管理、院内調剤にかかわる業務の負担軽減に期待する声が寄せられた一方、患者さんの費用負担の増加を懸念する声も聞かれました。福江薬局のスタッフさんからは、特に本実証にかかわる負担はなかったとお答え頂きました。

【まとめ】
 今回の実証研究を通して、ドローンによる処方薬配送は技術的に可能であることが証明されました。一方で、レベル4飛行(有人地帯の目視外飛行)を行えないことによる制限がありました。もしレベル4飛行が可能となれば、診療所のすぐ横や、巡回診療車、患者さん宅の敷地内などへの医薬品投下が可能となり、利便性が高まることが期待されます。長崎県五島市では「モバイルクリニック」と呼ばれるオンライン機器を搭載した巡回診療車による遠隔医療の取り組みを行っていますので(※4)、この事業との連携も期待されます。このほか、安全に医薬品を投下するための仕組みづくりや、ドローンによる医薬品配送にかかわる費用を誰がどのように負担するかについて、さらに検討を重ねる必要があります。

※1.株式会社日本総合研究所. 経済産業省「令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(ヘルスケアビジネス創出推進等事業)地域ヘルスケアビジネス水平展開等推進事業」
https://www.jri.co.jp/company/release/2023/0629/

※2.そらいいな株式会社
https://sora-iina.com/

※3.厚生労働省. 令和5年版厚生労働白書 資料編. 2 保健医療
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/22-2/

※4.五島市. モバイルクリニック
https://www.city.goto.nagasaki.jp/li/kurashi/050/090/

≪論文のページ≫
タイトル:Demonstration of autonomous fixed-wing drone delivery of prescribed medications in remote islands in Japan
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.768
DOI:10.1002/jgf2.768