2025年01月22日
長崎大学総合生産科学域(水産系)の山手 佑太 助教、同大大学院総合生産科学研究科の高谷 智裕 教授、竹垣 毅 准教授による研究により、猛毒のテトロドトキシン(TTX)を保有するヒョウモンダコが、捕食者の存在に対して筋肉・皮からTTXを放出することが明らかになりました(図1)。本種は、餌生物や捕食者に咬みついてTTXを注入して麻痺させることが知られていますが、体表からのTTX放出という別の毒利用生態が発見されました。
ポイント |
・ヒョウモンダコは捕食者の存在を認識すると、攻撃されてなくても自発的にTTXを放出することがわかりました。
・ヒョウモンダコはTTXを常に放出しているわけでなく、放出する/しないを必要に応じて切り替えることができることがわかりました。
本研究の背景 |
ヒョウモンダコは主に、タコの毒腺にあたる後部唾液腺と全身の筋肉・皮に多量のTTXを保有することで知られていました。後部唾液腺には高濃度のTTXが貯められており、標的生物に咬みついて注入することによって、餌生物を捕食したり、捕食者から身を守ったりする際に利用されます。 |
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本研究の成果 |
1つ目の実験では、ヒョウモンダコとウツボを、小さな穴の開いた透明アクリル板で隔てた水槽で3日間飼育すると、ヒョウモンダコの筋肉・皮のTTX濃度が約30%減少することが明らかになりました。一方で、同じ環境でウツボを提示せずに飼育した個体では、TTX濃度の減少はみられませんでした。2つ目の実験では、小さな穴の開いた透明アクリル板越しにウツボの提示なし/ありを計4回繰り返し、体表の粘液のTTX濃度を測定しました。その結果、ウツボを提示した直後の粘液にのみTTXが検出され、提示していない場合の粘液からはTTXは検出されませんでした(図2)。 |
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これら2つの実験から、ヒョウモンダコは捕食者の存在によって筋肉・皮から体表粘液と一緒にTTXを体外へ放出し、それによって筋肉・皮のTTXが消費されることが明らかになりました。さらに、これらの実験には2つの重要な点があります。1つ目は、両実験ともにヒョウモンダコとウツボは直接接触できない状況であったにも関わらず、ウツボ存在下でのみTTXの放出が確認された点です。これはヒョウモンダコが直接的な攻撃を受けていなくても、捕食者の存在を視覚や嗅覚などで認識しただけで、自発的にTTXを放出することを意味します。2つ目は、粘液中のTTXは捕食者を提示したときにのみ検出され、提示しなかった時には検出されなかった点です。これは、ヒョウモンダコがTTXを放出する/しないを必要に応じて切り替えることを意味します。これらの結果から、ヒョウモンダコは捕食者の存在を認識すると、筋肉・皮から体表の粘液中にTTXを分泌し、それによって筋肉・皮のTTXが表皮されることが明らかになりました。
ヒョウモンダコの危険性について |
体表の粘液から検出されたTTXレベルは低いため、粘液に含まれるTTXがヒトに直接害を及ぼす可能性は低いと考えられます。しかし過去の研究では、咬まれた場合にはヒトの致死量に達する可能性のあるレベルのTTXを保有する個体が日本でも発見されています。ヒョウモンダコを見かけた場合は、触って咬まれないよう注意が必要です。
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【謝 辞】
本研究は公益財団法人日本科学協会笹川科学研究助成(2020-4013)による助成を受けて実施されまし
た。
【論文情報】
雑誌名:Molluscan Research
タイトル:Verification of tetrodotoxin utilization against predators in Japanese blue-lined
octopus Hapalochlaena cf. fasciata.
著 者:山手佑太(長崎大学総合生産科学域(水産系))
高谷智裕(長崎大学大学院総合生産科学研究科)
竹垣 毅(長崎大学大学院総合生産科学研究科)
掲載日:2024年12月 27日
URL:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/13235818.2024.2441955
【参 考】
▶山手佑太助教のリサーチマップ
▶高谷智裕教授のリサーチマップ
▶竹垣 毅准教授のリサーチマップ
▶所属研究室(進化・行動生態学研究室)のHP
▶長崎大学大学院総合生産科学研究科