2025年05月08日
国立大学法人情報長崎大学情報データ科学部神山剛研究室(長崎市文教町、以下長崎大学)は、長崎自動車株式会社(本社:長崎市新地町、代表取締役社長:森田 誠、以下長崎バス)と株式会社リクルート(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:牛田 圭一、以下リクルート)の研究開発機関であるアドバンスドテクノロジーラボとの共同研究を2024年4月より開始。市街地を走るバスに取り付けたドライブレコーダーの映像から、画像処理AIによって人物の情報を推測、道路ごとの人流情報を可視化することに成功しました。
<AI によるドラレコ映像内の⼈物検知と属性の推測> |
今回の取り組みで、これまでの人流統計サービスでは難しかった、道路単位、バス停単位、店舗前などのリアルタイム性の高い人口統計の分析が可能となりました。これにより、より狭い範囲でのマーケティングの実施が可能となります。さらに、バス、自動車に搭載されたドライブレコーダーの映像を用いることで、日本全国でデータ収集・分析を容易に行うことができるようになります。
【研究概要】
長崎大学では、地方におけるインバウンド需要への対応などを目的とした人流データの活用を推進するため、長崎バスとのデータ収集とリクルートからの技術提供による共同研究のもと、新たな画像処理AIモデルの開発を行いました。このAIモデルでは、市街地を走るバスに取り付けたドライブレコーダー映像から歩行者の情報を抽出し、道路単位での人流データに加えて、それぞれの人物の属性、服装、持ち物、顔の向きなど、これまでより詳細な情報の解析を行うことが可能となります。
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【目的】
地方におけるより詳細な人流データの「可視化」
【研究背景】
現状の人流統計システムにおける課題として、地方では十分なデータ量を確保することが難しく、より詳細なデータの収集、拡充が必要とされていました。そこで、本研究ではバスのドライブレコーダー映像を活用し、道路ごとの人流情報を抽出し、それぞれの人物情報の解析を行うこととしました。そのためには、情報抽出時には人のダブルカウントや抽出漏れを低減させる必要があることから、新たな画像処理AIモデルの開発に着手。具体的には、レコーダーの映像ごとに適したマスクの自動生成、行動予測によるトラッキング最適化、人物属性の推測精度向上を目指し共同研究に取り組んでまいりました。
【開発したAIモデル】
1.動画ごとの最適なマスク自動生成
ドライブレコーダー映像では、例えば以下の写真のように、乗車中の人物や右の歩道の通行人など、カウント不要な対象も含まれます。これらの検出を防ぐために、消失点を頂点とした検出のための最適なマスクを動画ごとに自動で生成し、左の歩道のエリアに限定した人物抽出を可能としました。
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2.人物検知(カウント)の最適化
動画内で検出した人物の座標情報や面積変化の蓄積データをもとに、一定時間後の変化を2D上で推定。これにより、カウント重複による実数とのズレを軽減することが可能になりました。
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3.人物属性推定AI
映像から得られる様々な情報から人物の属性を解析するため、19,020件の教師データ(※)を作成。これにより、より詳細な人物属性解析を実現しながら、看板や広告などの通行者ではない対象を検出データから除外することが可能になりました。
※教師データ
AIの学習のために提示する、問題と解答をセットにしたデータのこと。AIの“教師”の役割を果たすためこのように呼ばれる。
例えば、「自動車」の写真に「これは何か?」という問題と、「これは自動車です」という回答の両方をセットにしたデータのこと。AIに例示するこのデータの量が多いほど、すなわちAIが学習する量が多いほど正解率が上がる。AIの精度をより高めるためには、大量の教師データを使って繰り返し学習させることが必要となる。
【今後の展望】
人流解析データの抽出技術はリクルートから長崎大学へ移転して研究を継続していきます。人物属性データの拡充やAIモデルの人物検出精度を上げることで、観光マーケティングやスマートシティにおけるデータ連携基盤として利用可能な汎用性の高いシステムの開発を目指します。また、長崎大学に新設されたセンター「長大データバンク」を通じて、このデータを活用し、社会課題解決を推進してまいります。
長崎バスでは、本研究で得られた技術を利用状況調査や路線分析などに活かしていくことを検討しています。リクルートでは、本研究で得られた技術のビジネス転用については未定ですが、研究機関としてのノウハウ蓄積と今後の技術発展に努めていきます。