2025年06月03日
このたび、パレスチナ・アハリヤ大学(Palestine Ahliya University: PAU)が2022年に刊行を開始した査読付き機関誌「Journal of Palestine Ahliya University for Research and Studies: JPAURS」に、野口大介技術職員(総合生産科学研究科教育研究支援部)が調査した内容が掲載されました。PAUは、ヨルダン川西岸地区南部にあるパレスチナ・ベツレヘム県の県都ベツレヘムに所在する、2007年に設立された私立大学です。
クモに関する研究論文は、以前から、クモを専門的に扱う伝統的な学術誌に掲載されてきたほか、クモに対象を特化しているという訳ではない、より幅広い分野を範囲に含む学際的な科学系ジャーナルでも発表されてきました。
最近は、従来からある学術誌とは異なる、新たなオープンアクセス形式の学際的なオンライン・ジャーナルが増加する傾向が知られています。しかし、クモを扱った論文が、従来からある伝統的なクモ学専門誌と学際的な学術誌とで、どれほど発表される割合が異なる傾向にあるか、必ずしも明確ではありませんでした。
そこで、ナガコガネグモArgiope bruennichi (Scopoli, 1772)を対象として含む研究論文が掲載されたジャーナルを、伝統的なクモ学専門誌と、そうでないものとに分類して調査が行われました。本研究で取り上げられたナガコガネグモは、日本の北海道から南西諸島(沖縄島まで)、そして世界的には旧北区(ヒマラヤ山脈の麓より北のユーラシアおよび北アフリカ)に広く分布し、比較的簡単に識別できるクモの一種です。
その結果、ここ数年間に限っては、これらの論文のうちのおよそ8割は、クモ学専門誌ではなく、一般的な科学誌に掲載されていたことが明らかとなりました。
これは、クモの研究が、クモ学の専門家によってクモを専門とする学術誌で発表されるほかに、ナガコガネグモに関しては、クモ全般に対してアマチュアともいえる研究者が、クモへの関心を高めて研究対象に選んでいたり、より幅広い読者層を意図するジャーナルの選択を行って研究論文を発表したりしている可能性を示唆していると考察されました。
これらの調査結果は、発展しているナガコガネグモの研究における科学出版の最近数年間における状況変化のごく一端を浮き彫りにしているものと思われます。
長崎大学は2023年にパレスチナ・ガザ地区の人道危機に関して一刻も早い停戦を呼びかけましたが(https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/news/news4128.html)、その情勢は深刻さを増しており、長期的で持続可能な停戦の実現が、更に強く待ち望まれます。
【論文情報】
タイトル:Publication Journals of Research on Wasp Spider, Argiope bruennichi: Specialized or General?
著者:野口 大介(長崎大学大学院総合生産科学研究科教育研究支援部 技術職員)
掲載誌:Journal of Palestine Ahliya University for Research and Studies, Vol. 4, No. 1, pp. 185–190 (2025).
URL:https://journal.paluniv.edu.ps/index.php/journal/article/view/167