2025年09月17日
【研究概要】
長崎大学大学院総合生産科学研究科博士後期課程Nor Alia Che Nozid、マレーシアトレンガヌ大学
Nor Hayati Ibrahim博士(長崎大学AFIMAプロジェクト学術交流協定校)、長崎大学海洋未来イノベーション機構 平坂勝也教授らを中心とする研究グループは、天然の高分子多糖類キトサンとポリフェノールの一種である天然色素クルクミンを配合した食品用紅藻多糖フィルムの特徴や機能性を解析し、環境に優しい食品包装の開発を行いました。この研究成果は、2025年9月3日に国際学術誌 International Journal of Biological Macromolecules(インパクトファクター8.5)に掲載されました。
【背景】
再生不可能な資源、特に石油化学製品由来のプラスチックの使用増加に伴い、プラスチックごみが大量に海に流出することで、海洋環境汚染、延いては海洋生物に深刻な影響を及ぼしています。このような背景から、タンパク質(コラーゲンやゼラチン)や多糖類(柑橘類由来のペクチン、海藻由来の寒天)などの再生可能なバイオポリマーから製造される生分解性包装素材の開発が進められています。紅藻由来多糖類は古くから食用海藻として消費されてきましたが、脆い構造、低い熱安定性などの問題点があり、フィルム包装への応用はこれまでに報告がありませんでした。そこで紅藻由来多糖類の欠点を補うために、フィルム形成能を持つ他の多糖類(キトサンなど)と抗酸化特性を持つクルクミンを配合することで新規生分解性包装フィルムの開発を行いました。
【研究成果】
従来の抽出方法(熱水抽出法,CV)と比較して、超音波法(UAE)によって抽出された多糖類は高いゲル強度とゲル化温度、および低い総硫酸塩含量を示しました。次に、超音波法によって抽出された多糖類にキトサンとクルクミンを配合することでプラスチック包装の代替品としての紅藻由来多糖類ベースの複合フィルムの最適化を行いました。水蒸気透過性(WVP)、酸素透過性(OP)、水分含有量(MC)、溶解性、透明性、および抗酸化活性(DPPHを用いたアッセイ)を調べることでフィルム特性を評価しました。キトサン0.5% (w/v)およびクルクミン0.07% (w/v)配合において最適な特性を持つフィルムを作成することが出来ました。したがって、キトサンとクルクミンを配合した食品用紅藻多糖フィルムは、食品産業における包装として使用できる可能性が示唆されました。(図1)
ただし、本研究は物理化学的な特性評価に限定されており、実際の食品貯蔵条件下でのフィルムの性能、生分解性などについては検討されていません。したがって、今後の研究では、実際の包装におけるフィルムの実用性、賞味期限延長効果、および安全性について解析を行っていく予定です。
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【本論文のタイトルと著者】
タイトル:
Valorization of agar extracted from Gelidium elegans via ultrasound-assisted extraction as potential film packaging by optimizing the incorporation of chitosan and curcumin
(キトサンとクルクミンを配合した紅藻多糖フィルムは食品用包装として利用価値を高める)
著者:
Nor Alia Che Nozid, Nor Hayati Ibrahim, Asami Yoshida, Youshi Huang, Takuya Hirose, Katsuya Hirasaka
(ノルアリアチェノジッド・ノルハヤチイブラハム・吉田朝美・ファンユウシ・廣瀬巧弥・平坂勝也)
掲載誌:International Journal of Biological Macromolecules
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ijbiomac.2025.147323