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アオザメの並外れた体温調節能力をバイオロギングで実証

行動記録計を装着したアオザメ. © Zola Chen

【概要】
・マグロやカジキ、一部のサメ(ホホジロザメやアオザメなど)は、まわりの水温より体温を高く保つ「部分的内温性」という性質をもちます。これはおもに冷たい海域への適応だと考えられてきました。アオザメのような温かい海域を好む種において、この能力がどのような生存上のメリットをもたらすのかは謎でした。

・動物に行動記録計を装着するバイオロギングの手法で、野生のアオザメの体温、まわりの水温や深度を計測しました。その結果、体温上昇が体温低下より10倍以上速く進行することを見つけました。冷たい深海では体温がまわりに奪われるのを防ぎ、温かい海面では逆に熱を吸収していました。この並外れた体温調節能力により、獲物が豊富な深海での捕食効率を高めていると考えられます。

・本研究により、アオザメのような温かい海域を好む種が、状況に応じて柔軟に体温を調節できることが明らかになりました。これは、体温保持と冷たい海域への適応こそが部分的内温性のメリットだとする従来の理解を覆す発見です。この新たな知見は、なぜ部分的内温性をもつ魚が世界中で繁栄するに至ったのかを解明する上で重要な手がかりとなります。

【研究の背景】
魚類のほとんどは変温動物であり、体温はまわりの水温によって決まります。しかし、マグロやカジキ、一部のサメ(ホホジロザメやアオザメなど)は、体の中心部の温度をまわりの水温よりも高く保つことができます。この性質は「部分的内温性」と呼ばれ、冷たい海域への生息域の拡大など、大きな生存上のメリットをもたらすと考えられています。

しかし、この部分的内温性をもつ魚の中には、アオザメやメバチ、メカジキのように、温かい海域を好む種もいます。これらの種にとって、部分的内温性にはどのようなメリットがあるのでしょうか。この謎を解明するため、私たちは動物に行動記録計を取り付けるバイオロギングという手法を使って、野生のアオザメの潜水行動と体温変化を計測しました。

【研究の成果】
台湾南東部の沖合で捕獲したアオザメに、水温・体温・深度などを計測する記録計を装着して放流しました。その結果、冷たい深海と温かい海面を行き来する際に、深海では体温がゆっくり下がり、海面ではすばやく上がっていました。つまり、深海では体温がまわりに奪われるのを防ぎ、海面では逆に熱を吸収していました。体温上昇は体温低下より10倍以上速く進行しており、この数値はメバチとメカジキに匹敵し、その他の魚類を大きく上回っていました。深海には獲物が豊富に存在するため、体温低下を遅らせて深海に長く留まり、ときおり海面ですばやく体温を回復させて再び潜ることで、潜水による捕食効率を高めていると考えられました。

図1.アオザメから記録された深度、水温、体温のデータ。
冷たい深海では体温がゆっくり下がり、温かい海面ではすばやく上がっていることがわかる。


さらに、1個体からは特殊な体温変化が記録されました(図2)。海面で体温をすばやく回復させた後、海面に留まって体温をさらに上げ、海面水温を上回ったタイミングで深海に潜りました。潜水中の体温と水温の差は、最大で約10℃に達しました。この個体は、冷たい深海へ潜ることを見越して、海面水温を上回るまで体温を上げてから潜るという「潜水前の準備」をした可能性があります。私たちの知る限り、このような体温調節は他の魚類では前例がなく、魚類の意思決定能力という観点からもとても興味深いデータです。

図2.アオザメから記録された特殊な体温変化。
海面に浮上して体温をすばやく回復させた後、さらにもう一度体温を上げてから深海へ潜っていることがわかる。


本研究により、アオザメのような温かい海域を好む種が、状況に応じて柔軟に体温を調節できることが明らかになりました。これは、体温保持と冷たい海域への適応こそが部分的内温性のメリットだとする従来の理解を覆す発見です。この新たな知見は、なぜ部分的内温性をもつ魚が世界中の海で繁栄するに至ったかを解明する上で重要な手がかりになります。

【今後の展開】
アオザメの並外れた体温調節能力を可能にする生理的メカニズムの詳細はまだ不明です。魚類では、エラ呼吸の際にさかんに熱交換が起こり、エラで冷やされた(あるいは温められた)血液が全身をめぐるため、血流を通じて体温が大きく変化します。そのため、アオザメが心拍数を変化させ、まわりの海水との熱交換をうまく調節していた可能性があります。この仮説を検証するため、今後は野生のサメの心拍数を測る手法を開発し、アオザメに応用したいと考えています。

【論文情報】
 論文タイトル:

Enhanced thermoregulation abilities of shortfin mako sharks as the key adaptive significance of regional endothermy in fishes
掲載誌:Journal of Animal Ecology
掲載日:2025年8月29日
著者:
徳永壮真(総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命共生体進化学専攻・5年一貫制博士課程5年)
Wei-Chuan Chiang(台湾農業部水産試験所 東部漁業生物研究センター・主任)
中村乙水(長崎大学 海洋未来イノベーション機構 環東シナ海環境資源研究センター・准教授)
松本瑠偉(沖縄美ら島財団 総合研究所・動物研究室長 兼 上席研究員)
渡辺佑基(総合研究大学院大学 統合進化科学コース/統合進化科学研究センター・教授)
DOI: https://doi.org/10.1111/1365-2656.70116