2025年10月09日
医歯薬学総合研究科の宮田潤助教(離島・へき地医療学講座)らによって、全国薬剤卸データをもとに、ロタウイルスワクチンやおたふくかぜワクチン等の接種割合を推定し報告した論文が、日本衛生学会の英文誌であるEnvironmental Health and Preventive Medicineに掲載されました(2025年10月公開 )。
【研究の背景】
日本にはこれまで、定期接種化(予防接種法に基づく予防接種への追加)がされていない、任意接種のワクチンの全国的な接種割合を示したデータはありませんでした。また、もともと任意接種であったワクチンが定期接種化されることで、全国どこに住んでいても予防接種の費用が補助されることになり、接種割合の上昇が期待されますが、その効果は十分には示されていません。そこでこの研究では、任意接種のワクチンの全国的な接種割合を推定し、定期接種の項目に含まれるワクチンの接種割合と比較することで、定期接種化の効果を検討しました。
【研究方法の概要】
この研究では、ロタウイルスワクチン、ヒブワクチン、四種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日せき・ポリオ混合ワクチン)、おたふくかぜワクチンの4つの、2011年10月から2022年3月までの月ごとの全国薬剤卸データを入手し、それぞれのワクチンの接種回数を割ることで、接種者数を算出しました。次に、算出された接種者数を、対象人口(その月に新規に予防接種対象者となった人口)で割ることで、それぞれのワクチンの推定接種割合を求めました。4つのワクチンのうち、研究期間内に定期接種であったワクチンについては、世界保健機関(WHO)とユニセフ(国連児童基金)が合同で報告している日本のワクチン接種割合と比較(Bland-Altman分析により検定)しました。接種割合の推定のため、日本国内カバー率99%の全国薬剤卸データである、IQVIA IMSBase Japan Pharmaceutical Market (JPM) databaseを活用しました。
ロタウイルスワクチンは、2011年10月に任意接種ワクチンとして生後6週から14週6日までの小児を対象に接種開始され、2020年10月に定期接種化されました。ヒブワクチンは、生後2か月以降の小児対象の任意接種ワクチンとして2008年に接種開始され、2013年4月に定期接種化されました。四種混合ワクチンは、2012年11月にそれまでの三種混合ワクチンとポリオワクチンを引き継ぐ形で接種開始され、生後2か月以降の小児を対象とし、当初より定期接種でした。おたふくかぜワクチンは1歳以降の小児を対象とするワクチンで、1989年から1993年まで定期接種のワクチンでしたが、ワクチンに由来する無菌性髄膜炎の症例報告をきっかけに定期接種の対象外となり、2025年9月現在では任意接種のワクチンとされています。
なお、おたふくかぜワクチンは、日本環境感染学会の「医療関係者のためのワクチンガイドライン」等に基づいて、成人に接種されることもあります。また、2021年4月から10月頃まで、おたふくかぜワクチンの出荷停止により全国的に供給不足の状態にありました。
ロタウイルスワクチンの推定接種割合は、2020年10月の定期接種化より前から上昇傾向であった
![]() |
ロタウイルスワクチンの推定接種割合は、2011年10月の接種開始後から上昇傾向を示し、2021年1月時点で0.9に達し、その後横ばいでした(図1)。
ヒブワクチンの推定接種割合は、2013年4月の定期接種化より前の2011年末の時点で1.0であった
![]() |
ヒブワクチンの推定接種割合は、2011年末の時点で既に1.0に達しており、定期接種化(2013年4月)のタイミングで一時的な上昇を認め、その後は1.0前後で横ばいでした(図2)。
四種混合ワクチンの推定接種割合は、2014年に1.0に達し、その後横ばいであった
![]() |
四種混合ワクチンの推定接種割合は、2012年11月の接種開始後、2013年時点で約0.6-0.7でした(図3)。その後2014年に1.0に達し、横ばいで推移しました。
おたふくかぜワクチンの推定接種割合は、2011年10月から2021年4月にかけてゆるやかに上昇していた
![]() |
おたふくかぜワクチンの推定接種割合は、2011年10月から2021年4月までに変動を伴いながら緩やかに上昇していましたが、出荷停止による供給不足を受けてか、その後同年10月頃まで推定接種割合の低下がみられました(図4)。
全国薬剤卸データに基づく推定接種割合は、WHOとユニセフが合同で報告しているワクチン接種割合と比べてわずかに高かった
全国薬剤卸データに基づくヒブワクチンや四種混合ワクチンの推定接種割合は、図2や図3に示した通り、WHOとユニセフが報告していたワクチン接種割合と比べわずかに高い値でした。Bland-Altman分析により検定した結果、全国薬剤卸データに基づくヒブワクチンの接種割合はWHO/ユニセフの報告と比べ0.05(95%信頼区間 0.02-0.07)、四種混合ワクチンにおいては0.03(95%信頼区間 0.01-0.05)、それぞれ有意に高い値であるという結果が示されました。
【まとめ】
今回の研究の結果、全国薬剤卸データに基づく推定接種割合は、WHO/ユニセフの報告と比べわずかに高かったものの、特にデータのない任意接種のワクチンについて、全国的な接種割合を推定するための有効な代理指標になると考えられました。推定値がわずかに高かった理由としては、医療機関における期限切れ等に伴う廃棄や、定期接種対象者以外への接種によるものが考えられました。
ロタウイルスワクチンやおたふくかぜワクチンについて、任意接種の期間においても推定接種割合の上昇がみられましたが、その理由として、地方自治体による公費助成、医療・保健従事者等による積極的なワクチンコミュニケーション、そして保育者やほかの関係者への公的な呼びかけの効果が考えられました。
今回、ワクチンの定期接種化による接種割合の上昇については明らかにできませんでした。しかしながら、多くの先行研究によって公費助成の効果が示されていることから、効果が確立されたワクチンについては、希望する人が経済的負担を理由に接種をためらうことのないよう、 できるだけ速やかに定期接種化されることが望まれます。
【補足】
本研究期間終了後の2024年4月、四種混合ワクチンとヒブワクチンを混合した五種混合ワクチンが導入されました。2025年10月現在 では、原則として五種混合ワクチンが用いられています。
【謝辞】
本研究は医療経済研究機構 2022年度(第26回)研究助成 若手研究者育成研究助成を受けて行われました。
一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究
【論文情報】
タイトル:Estimated coverage of vaccines for children in Japan between 2011 and 2022: a descriptive study utilizing nationwide monthly market data
掲載誌:Environmental Health and Preventive Medicine
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ehpm/30/0/30_25-00139/_article/-char/en
DOI:10.1265/ehpm.25-00139
ワクチンについて、より詳しく知りたい方へ
Know VPD! - ワクチンで防げる病気(VPD)を知って子供たちの命を守る
日本プライマリ・ケア連合学会 こどもとおとなのワクチンサイト
URL:https://www.vaccine4all.jp