2026年01月06日
【概要】
医歯薬学総合研究科の佐藤克也教授らの研究グループは、ヒトプリオン病(HPD)の診断に有用な既存技術であり、本学が開発したRT-QuIC法を活用し、毛根および頭皮からプリオンシード活性(PSA)を検出する新しい非侵襲※1アプローチの有効性を検証しました。従来の髄液を用いたRT-QuIC法は、感度※2 80〜90%、特異度※3 99〜100%と非常に高い精度を示していますが、髄液採取は侵襲的で患者負担が大きいという課題がありました。本研究では、入浴後のブラッシングや枕、ヘアブラシなどから得られる毛根や頭皮サンプルを用いることで、より安全で非侵襲的な診断法の可能性が示唆されました。
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【ポイント】
◆HPD の多くを占める孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)は、異常に折りたたまれたプリオン蛋白質によって引き起こされる致命的な神経変性疾患である。
◆sCJDでは発症から3ヶ月程度で急速に悪化し無動無言に至るために、発症後、できる限り迅速な診断が必須である。
◆HPD診断では、感度80〜90%、特異度99〜100%を示す髄液RT-QuIC法が非常に有効だが、髄液採取を伴う侵襲的な検査である。
◆頭皮および毛根を用いたRT-QuIC法は、感度52.5%、特異度100%を示した。毛根検査の感度は髄液検査に及ばないものの、誤診のない高い特異度を持ち、髄液検査を許容できない患者に対し、非侵襲的かつ比較的感度の高い診断選択肢として提供される可能性がある。
◆本研究成果は、『Sci Rep. 2025 Nov 24;15(1):41492.』(2025年11月24日付)の電子版に掲載された。
【内容】
1. HPD患者22名の剖検※4 例から採取された頭皮および毛根を用いたRT-QuIC法では、全例(100%)でPSA陽性が確認された。また、病理学的検査により、患者の頭皮の真皮層内にある毛包、肉芽組織、およびケラチノサイト※5 に異常プリオン蛋白質が確認されており、頭皮のPSAレベルは、脳組織のPSAレベルと類似したシード活性を示すことが明らかとなった。
2. HPD患者177名と非HPD患者123名を含む前向き研究※6において、毛根RT-QuIC法は感度52.5%、特異度100%を示した。この結果は、髄液RT-QuIC 法と同様に、誤診のない高い特異度を持つことを確認するものである。髄液RT-QuIC法の感度は74.6%であり、毛根検査の感度はこれに及ばないものの、高感度であっても特異度が低い(65.0%)14-3-3蛋白質や総タウ蛋白質といった他のマーカーと比較して優位性を持つ。
3. 毛根RT-QuIC法で100%の陽性結果を確実にするためには、15本以上の完全に無傷な毛根を採取する必要があることが示された。毛根のない毛髪サンプルでは陽性率が非常に低い結果となった。また、HPD の病型別では、毛根RT-QuI 法の感度は孤発性HPD(56.1%)が遺伝性HPD(37.8%)よりも高く、V180I変異を持つ遺伝性HPD では、異常プリオン蛋白質の蓄積が少ないことが原因と考えられ、感度が特に低いことが判明した。
4. 毛根RT-QuIC法は、重度の背骨の変形や強いミオクローヌス※7 などの理由で髄液検査を許容できない患者に対し、非侵襲的かつ比較的感度の高い診断選択肢として提供される可能性がある。今後、臨床への導入を検討するためには、より大規模な患者コホート※8 と適切にマッチした対照群を用いた包括的な検証研究が不可欠である。
【用語解説】
(※1)非侵襲
「身体を傷つけない」または「負担をかけない」手法を指す。具体的には、皮膚を切開したり、体内に器具を挿入したりすることなく、検査や治療を行う方法
(※2)感度
「ある集団の中の病気の人を正しく見分ける力」または「病気の人を正しく検出する力」
(※3)特異度
「ある集団の中の病気ではない人を正しく見分ける力」または「病気でない人を正しく検出する力」
(※4)剖検
病死した患者の遺体を解剖して調べること。医療行為の一つで、病理解剖とも言う。
(※5)ケラチノサイト
表皮を形成する上皮細胞のもっとも外側の組織で、角化細胞とも言う。外界からのさまざまな刺激から生体を守る重要な役割を果たす。
(※6)前向き研究
一定の期間を経て前向きにデータをとる縦断研究の一つ。疾患の起こる可能性がある要因にさらされるかどうかに注目して群分けし、研究を開始してから将来(数ヵ月後、数年後)にわたって追跡を続け、疾病などの発生状況を比較する研究方法。
(※7)ミオクローヌス
意識を失うことなく、突然筋肉がピクッと痙攣するような不随意運動のこと。手足、顔、体など、さまざまな部位で起こる。
(※8)コホート
共通の性質のある集団
