HOME > Research > 詳細

Research

ここから本文です。

放置された海底ごみは藻場に深刻なダメージを与える


【概要】
総合生産科学研究科のAlifro Maldini(博士後期課程1年次)および海洋未来イノベーション機構のGregory N. Nishihara(西原直希)教授らの研究グループは、長崎県新上五島町の有川湾において、海底ごみがアマモ場に与える影響とその除去効果を4年間(2021年〜2024年)にわたるフィールド実験で明らかにしました。

調査の結果、海底ごみの継続的な除去がアマモ場の面積や被度の回復に大きく寄与する一方で、放置されたごみは、わずか数ヶ月でアマモの個体数密度を劇的に減少させることが実証されました。本研究は、海底ごみ除去が生態系修復および磯焼け対策の有効な手段であることを示す重要な知見となり、世界ではじめて海ごみのアマモ場への影響を自然環境のなかで証明しました。

本研究成果は、2026年1月7日に国際学術誌 Marine Pollution Bulletin に掲載されました。

【研究の背景】
アマモ場は「海のゆりかご」と呼ばれ、生物多様性の維持や炭素固定(ブルーカーボン)において極めて重要な役割を果たしています。しかし、世界的に減少傾向にあり、その要因の一つとして海洋ごみの蓄積が懸念されてきました。特にプラスチックは分解されにくく、長期間にわたり生態系を圧迫する可能性がありますが、その具体的な影響を長期的に評価した研究は世界的に不足していました。

有川湾での海洋ごみ回収調査:長崎県新上五島町の豊かなアマモ場を保全するため、水深1~7mの海域でスキンダイビングによる海底ごみの回収活動を毎月行っています。回収したごみは緑色のネットに収集した後、研究室で種類ごとに分類し、量を計測しています。2021年より継続している本調査を通じ、アマモ場に蓄積する海洋ごみの現状を記録し、アマモ場の回復を図っています。写真は2024年5月に行った作業の様子です。アマモは4~5月にかけて開花し、7月頃には成熟し多くの種を実らせます。


【研究の手法と成果】
本研究では、長崎県の新上五島町における、有川湾内の2地点において2つの実験を行いました。
① ごみ除去による回復実験:
実験エリアを「ごみを継続的に除去する区間」と「途中で除去を止める区画」に分け、アマモの被度と面積の変化を追跡しました。4年間で合計426kgの海底ごみを回収しました。その65%は漁網であり、全体の74% がプラスチック由来でした。ごみの除去を続けた区画では、除去を止めた区画よりも高い割合でアマモ場が拡大しました。これは、ごみを取り除くことでアマモが地下茎を伸ばすためのスペースが確保されたためと考えられます。
② ごみ放置による悪影響の検証:
健康なアマモの上に漁網を設置し、期間(67日〜252日)ごとのダメージを測定しました。漁網を放置した区画では、個体数密度が顕著に低下しました。減少率は、対照区の -0.004 ind. m-2 d-1 に対し、252日間放置した区画では -0.108 ind. m-2 d-1 と大幅に加速しました。これは、網が葉を覆い隠すことで光合成を妨げ、さらに水流を阻害して酸欠状態を引き起こす窒息が原因であると推測されます。

【社会的意義と今後の展望】
本研究により、海洋ごみの悪影響は数ヶ月という短期間で現れるのに対し、除去による回復効果を実感するには数年の歳月が必要であることが示されました。Nishihara教授は、「海底ごみの除去は、単なる美化活動ではなく、アマモ場が持つ炭素固定や水産資源供給といった機能を回復させるための実効的な『生態系修復戦略』である」と指摘しています。今後は、ごみがアマモの根圏の微生物や低生成物に与える影響など、より微視的な視点での調査も進めていく予定です。

【研究助成】
本研究は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF23S21020)の支援を受けて実施されました。

【論文情報】
タイトル:
Efficacy of removing marine debris and the effects of sustained exposure on a Zostera marina meadow
著者:
Alifro Maldini, Makoto Kabeyama, Taishun Kobayashi, Tomoyuki Aota, Hikaru Ansai, Nozomu Takashima, Yoshiki Matsushita, Gregory N. Nishihara
掲載誌:Marine Pollution Bulletin (2026) 225, 119214
DOI:10.1016/j.marpolbul.2026.119214

【参考情報】
長崎大学水圏植物生態学研究室HP:https://nagaremo.jp/ja/