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アメーバ赤痢の感染伝播を担うシストを覆うシスト壁が2層構造を持つことを発見

長崎大学熱帯医学研究所 Tam Kha Vo 助教と見市文香 教授、佐賀大学医学部 吉田裕樹 教授の共同研究グループは、日本でも感染の機会がある寄生虫感染症(アメーバ赤痢)の病原体“赤痢アメーバ”について、感染伝播を担う感染嚢子(シスト)を覆うシスト壁の形成機構を詳細に解析しました。

その結果、これまで1層構造(キチン繊維と構造タンパク質で構成)とされてきたシスト壁が実は2層構造で、疎水性成分(おそらく脂質)が蓄積される層が存在することを発見しました(図1)。この2層目が、シストが厳しい環境に耐えるための物質遮断を担っていると考えられます。

この発見はシストを効率的に破壊する方法の提示に繋がり、“アメーバ赤痢”の根絶の礎となることが期待されます。


【ポイント】
・アメーバ赤痢は寄生原虫“赤痢アメーバ” ※1による感染症で、世界では年間約5,000万人が感染し、そのうち4~7万人が死亡していると推定されています。日本でも年間1000例程度の臨床報告がある感染症です。治療薬が限られること、副作用が多いこと、また有効なワクチンが存在しないことから、新規薬剤開発・病態の理解が重要です。
・ヒトへの主な感染経路は、感染嚢子(シスト)※2の経口摂取です。シスト壁※3は、“赤痢アメーバ”が、宿主の体内・外で生存するために不可欠な構造であり、宿主から次の宿主への伝播を成立させます(図2)。
・本研究は科学雑誌『PLoS Pathogens』オンライン版(2026年2月27日午前4時、日本時間)
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1013940
に掲載されます。

【背景と言葉の説明】
※1 赤痢アメーバ
アメーバ赤痢の病原体である赤痢アメーバは、単細胞真核生物です。ヒトの腸管内に感染し、アメーバ運動をしながら2分裂で増殖している栄養体が、感染力を持ち体外で生き延びことが出来るシスト(感染嚢子)へ分化、新たなヒトへと感染を拡大させていきます(図2)。

※2 シスト
赤痢アメーバのシストは、球形で厚いシスト壁をもつ休眠型の構造体で、核を4つ持ちます。宿主の腸内で成熟シストが形成され、糞便とともに排出、汚染された水や食物を介して次の宿主へ感染します。宿主体外での乾燥にも強く、宿主体内の胃酸にも耐えるため、経口摂取により宿主体内に入り、感染を成立させます。

※3 シスト壁
シストは、厳しい環境ストレスに耐えることが知られます(上記参照)。それは、キチン繊維と構造タンパク質(JacobsとJessies)による物質遮断によるものとされてきました。しかし、我々は、キチン繊維と構造タンパク質による構造と物質遮断に相関が無いことを見出しており、物質遮断の分子機構は未解明でした。

【研究手法と成果】
・構造タンパク質(JacobsとJessies)の局在解析

それぞれのタンパク質成分に対する抗体を作製、間接蛍光顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、および免疫電子顕微鏡法で、それぞれのタンパク質のシストにおける局在を解析しました。結果、キチン繊維と構造タンパク質が、形成初期には細胞膜から細胞外へと均一に広がって存在しており、時間が経つにつれ、細胞表層側に濃縮されていくことを見出しました(図3)。そして、細胞膜とキチン繊維層の間に、有機溶媒に溶ける成分、すなわち疎水性成分の層が形成されていくこともあわせて見出しました(図4)。


【今後の期待】
今回、シスト壁が2層構造になっており、内層部分には疎水性成分が蓄積していることが明らかになりました(図4)。また解析の過程で、シストが物理的な力には強いが、有機溶媒に非常に感受性が高いことが分かりました。この結果は、2層構造をとるシスト壁の内層部分に存在する疎水性成分がシストの構造・機能維持に重要であることを示しています。つまり、有機溶媒処理などによるシスト壁構造の破壊によるシストの高効率での死滅を可能にさせます。これは、感染伝播阻止の新たな戦略、例えば、エタノールなど有機溶媒によるシスト除去の効果が期待されるため、積極的に取り入れることを提言していきます。

本研究は、化血研研究助成「赤痢アメーバが産生する超長鎖ジヒドロセラミドの休眠化における機能解析」(研究代表者 見市文香)、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)「リピドミクスのメタデータに基づく、赤痢アメーバ脂質代謝解析―赤痢アメーバの生化学・生理学と創薬標的・リード化合物の提供―」(研究代表者 見市文香 (2021-2024))、「赤痢アメーバと宿主免疫がつくる攻防空間の多面的理解に基づく感染症創薬基盤の創生」(研究代表者 見市文香(2024-継続中))などの支援を受けて行われました。

【論文情報】
タイトル:
Trafficking and organization of cyst wall components into a robust biphasic structure in Entamoeba
著者名:Tam Kha Vo, Hiroki Yoshida, Fumika Mi-ichi
雑誌:PLoS Pathogens
リンク:https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1013940