2026年04月08日
マメダコの雄が、腕の欠損リスクが想定される状況下で、繁殖に不可欠な交接腕を探索に使用することを控えることが水槽内の実験によって示されました。
【ポイント】
・マメダコの雄は、初めて見る未知の物体を腕で触る際に、交接腕を使用しないことがわかりました。
・腕を使って穴の中の餌を探す際に、交接腕を使用する場合は事前に他の腕で長時間探索することが明らかになり、穴の中の安全を確かめてから交接腕を使用することが示されました。
【本研究の背景】
タコの腕は8本あり、それらは移動や探索、採餌だけでなく繁殖にも使用されます。交接腕とは、雄が繁殖のために使用する特別な腕で、右第3腕(右側の前から3番目の腕)の1本しかありません。タコは捕食者の攻撃によって腕の一部を頻繁に欠損することが知られています。しかし、交接腕は、交接(いわゆる交尾)の時に雄が精夾と呼ばれる精子が詰まったカプセルを雌に渡すために特殊な構造をしており、欠損してしまうと他の腕で代替することはできません。多くのタコ類は寿命が短く、繁殖期は一生に1回しかないため、交接腕の欠損はほとんどの場合、雄にとって子孫を残せないことを意味します。先行研究では様々な種のタコにおいて、交接腕は他の腕と比較して欠損率が低いことが知られており、タコの雄が交接腕を欠損しないように行動することが推測されてきました。タコの雄が交接腕を丸めて体に近づけることは知られていましたが(図1)、実際にどのようにして交接腕の欠損リスクを回避しているかは明らかではありませんでした。
図1. 交接腕を丸める様々なタコの雄。矢印は交接腕を示す。(a)ヒョウモンダコ、(b)イイダコ、(c)マメダコ。 |
【本研究の成果】
長崎県沿岸で採集されたマメダコの腕の欠損状況を調べたところ、雄の交接腕は、他の腕あるいは雌の同じ位置にある腕(右第3腕)と比較して欠損しにくいことが明らかになりました。そこで、これらの個体を使用して以下の2つの実験を実施しました。
1つ目は、タコに未知の物体を触れさせる実験で、水槽内に釣り用のオモリを設置し、タコがどの腕を使って触るかを記録しました。その結果、雌はすべての腕を満遍なく使う一方で、雄は交接腕を使用しませんでした(図2)。2つ目は、内部が見えない穴の中から餌を取りださせる実験を行いました。この実験では、腕が通るほどの小さな穴の中に餌を入れ、餌を探すためにどの腕を穴に挿入したかと、各腕を挿入した時間を記録しました。その結果、雄が交接腕を挿入する頻度と雌が右3腕を挿入する頻度に有意な雌雄差はみられませんでした。しかしながら、交接腕を初めて挿入するまでの時間に着目すると、右第3腕(雄では交接腕)を挿入する前に他の腕で穴を探索する時間が、雄は雌よりも有意に長いことが明らかになりました(図3)。マメダコが生息する岩礁性の潮間帯では、多くの岩穴や裂け目があります。マメダコはこのような隙間に腕を挿入して餌を探します。しかし、隙間に大型のカニなどの捕食者が潜んでいる場合があり、迂闊に腕を挿入すると捕食者に腕の一部を切られてしまうリスクがあります。これらの実験から、マメダコの雄は交接腕を捕食者に切られるリスクを回避するために、未知の物体に触れる際には交接腕を使用しない、あるいは他の腕を使って安全を確かめてから交接腕を使用することが示されました。
本研究の意義は、マメダコの雄が捕食(つまり死)から単に逃げるだけでなく、将来の繁殖成功を確保するために繁殖に不可欠な体の一部分を選択的に守るという行動を実証した点です。この研究を通じて、動物が繁殖あるいは生存上重要な「急所」を選択的に守るためにどのような行動が進化しているかについて、より一層理解が深まることが期待されます。
![]() 図2. 未知の物体(釣り用オモリ)を触る際に各腕を使用した個体の割合。 |
図3. 右第3腕(雄では交接腕)を穴に挿入する前に、事前に他の腕を挿入していた時間。 |
【論文情報】
タイトル:
Male octopus avoid using hectocotylized arm under situations with unpredictable risks
著者:
晴木啓二朗(長崎大学大学院総合生産科学研究科)、山手佑太(長崎大学総合生産科学域(水産系))、竹垣 毅(長崎大学大学院総合生産科学研究科)
雑誌名:Ethology
