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骨折後の骨は本当に元通りに治るのか? 〜骨を構成する間質細胞の「疲弊」が骨の再生能力を低下させる〜

【ポイント】
骨折など骨に損傷が起こると、損傷部位には新たな骨が形成され、骨は元の状態へと回復(治癒)することを私たちは経験的に理解しています。一方で、骨折後には骨密度の低下や再骨折のリスクが高まることが大規模疫学研究から報告されていますが、その生物学的な理由は分かっていませんでした。
本来、骨の損傷治癒過程では骨髄に存在する骨髄間質細胞※1が骨を形成します。一度損傷を受けた骨では、骨髄間質細胞の機能が低下することで骨を形成する能力が失われ、再度の損傷時には、骨髄間質細胞は急激に骨髄脂肪細胞※2になることを発見しました。この事象を新たに「間質疲弊:stromal exhaustion※3」と定義しました。
この間質疲弊を引き起こすメカニズムとしてWnt/β-cateninシグナル※4が関与していることを解明し、さらに、同シグナルが治療ターゲットとなる可能性があることを示しました。本研究結果は再生医療分野への貢献、さらに少子超高齢社会のわが国における健康寿命の延伸に寄与することが期待されます。

【概 要】
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の松下祐樹教授らの研究グループは、米国テキサス大学などを含む国際共同研究によって、損傷を受けた骨では、骨髄に存在する骨髄間質細胞が永久的な疲弊状態に陥ることで細胞の機能が低下し、骨を形成する能力が失われ、再度の損傷時には急激に骨髄脂肪細胞へと分化し、骨髄脂肪が増加することを発見しました。

骨折などで骨が損傷すると、通常は骨の中の骨格幹細胞※5や骨髄間質細胞が活性化され、骨芽細胞※6へと分化することで新たな骨を形成し、骨は一見元の状態へと治癒します。しかし、骨折歴のある人では再骨折リスクが高まることが知られている一方で、その仕組みは全く分かっていませんでした。

本研究では、マウスの骨髄損傷モデルおよび骨折モデルを用いて、一度損傷を受けた骨では、見かけ上治癒したとしても細胞レベルでは骨髄間質細胞が損傷による刺激で慢性的な炎症を起こしており、再度の損傷を受けると、骨髄間質細胞は骨髄脂肪細胞へと分化していることを発見し、研究グループはこの状態を「間質疲弊:stromal exhaustion」と定義しました。さらに、疲弊した骨髄間質細胞では骨再生に重要なWnt/β-cateninシグナルが十分に活性化されないことを見出しました。同シグナルを薬剤または遺伝学的手法で活性化すると、骨形成能が回復し、骨髄脂肪細胞への分化も抑制されました(図1)。

図1 間質疲弊:stromal exhaustionの全貌。
骨髄間質細胞は損傷を受けると疲弊状態に陥り、再損傷時には骨形成能を失い脂肪細胞になってしまう。

本研究成果は、「骨は治癒すれば完全に元通りになる」という従来の考え方に対し、骨の細胞には損傷の影響が残り、再生能力が低下する可能性を示したものです。将来的には、骨髄間質細胞の疲弊を標的とした新たな骨折治癒促進法や骨再生治療の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、英国の国際学術誌である「Nature Communications」に2026年8月19日(日本時間)に掲載されました。

【研究の背景】
わが国を含む先進国では高齢化が進み、骨粗鬆症や脆弱性骨折は健康寿命を損なう大きな要因となっています。特に高齢者の骨折は、筋力の低下、寝たきり、要介護状態に直結し、社会的にも重要な課題です。骨は、骨折などの損傷を受けても治癒する能力をもっています。骨の中にある骨髄には、血液を作る細胞だけでなく、骨の形成や骨髄環境の維持に関わる骨格幹細胞や骨髄間質細胞が存在しています。骨が損傷すると、これらの幹細胞や間質細胞が活性化し、骨芽細胞へと分化することで新たな骨を作ります。そのため、骨折は治癒すれば元の状態に戻ると考えられてきました。
一方で、臨床的には、過去に骨折したことがある人では、骨密度の低下や再骨折リスクが高くなることが報告されています。しかし、なぜそのようになるのかについてはこれまで分かっていませんでした。特に骨折後に骨髄に存在する細胞レベルで何が起こっているのか、また一度損傷と治癒を経験した細胞が再び十分な再生能力を発揮できるのかは分かっていませんでした。本研究では、「骨は一見治癒したように見えても、骨髄の細胞には損傷の影響が残り、再生能力が低下しているのではないか」という仮説を立て、特に骨髄間質細胞の運命と機能を詳細に解析しました。

【研究の成果】
本研究ではまず、マウスの大腿骨に対して繰り返し骨髄損傷を加え、骨の治癒過程を比較しました。骨髄間質細胞はレプチン受容体(Lepr)※7を発現することが分かっており、本研究ではLeprを発現する骨髄間質細胞を赤色蛍光分子で可視化することで、損傷時の骨髄間質細胞の運命を追跡することに成功しました。その結果、初回の損傷後には一時的に非常に多くの新生骨が形成し骨髄間質細胞は骨を作る骨芽細胞になっており、その後は一時的に増えた骨が減少することで元通りの骨髄に戻り、細胞レベルでも元と同様の骨髄間質細胞で満たされていました。ところが、2回目の損傷後には新生骨はほぼ形成されず、骨髄は脂肪細胞で満たされていました。非常に興味深いことに、これらの骨髄脂肪細胞は骨髄間質細胞由来であり、骨髄間質細胞は本来骨芽細胞へと分化する能力をもつにも関わらず、損傷によって細胞の機能が低下し、骨を形成する能力を失い、再度の損傷時には直接骨髄脂肪細胞になることが明らかになりました。研究グループは、このように損傷を契機として骨髄間質細胞が機能低下する状態を「間質疲弊:stromal exhaustion」と定義しました(図2)。

図2 1回目の骨髄損傷後には骨髄間質細胞が骨芽細胞に分化することで骨髄に骨が形成されますが、
損傷によって骨髄間質細胞は疲弊状態に陥ってしまい、2回目の骨髄損傷後には骨髄間質細胞は骨芽細胞に分化できずに
脂肪細胞へと分化することで骨髄には骨が形成されず、代わりに脂肪で満たされます。

次に、この疲弊が老化と同様の現象かを明らかにするために、老齢マウスに対して骨髄損傷を加えたところ、骨髄間質細胞の骨形成能は比較的維持されており、細胞の疲弊が老化とは異なる概念である可能性を示しました(図3)。実際に細胞レベルで何が起こっているかを解明するために、それぞれの時期の骨髄間質細胞を採取して、一つひとつの細胞の性質を詳しく解析するシングルセル解析※8を行ったところ、やはり疲弊は老化とは異なり、疲弊した骨髄間質細胞では慢性炎症、ストレスへの応答、代謝の異常などが起こっていることが明らかになりました。

3 老齢骨髄においても損傷後に骨形成能を維持していることから、間質疲弊と老化は異なる現象である。

最後に、損傷によってなぜ骨髄間質細胞の疲弊が起こるのか、そのメカニズムを調べたところ、本来損傷後の骨形成時に活性化するはずのWnt/β-cateninシグナルが、繰り返しの損傷後には十分に活性化されていないことが明らかになりました。この結果を実際に検証するために、まず骨髄間質細胞でβ-cateninを特異的に欠失させると、1回目の損傷後でも骨形成が起こらず、骨髄脂肪細胞への分化が亢進しました。一方で、Wnt/β-cateninシグナルを薬剤または遺伝学的手法により活性化すると、繰り返しの損傷後でも骨形成能の回復と骨髄脂肪化の抑制が認められ、骨髄間質細胞自身も脂肪細胞化することなく骨芽細胞へと分化していました(図4)。このことから、Wnt/β-cateninシグナルを活性化することで間質疲弊を防ぎ、骨髄間質細胞の骨形成能を維持できることが明らかとなり、間質疲弊の治療のターゲットとしての可能性が示されました。

図4 2回目の損傷時にWnt/β-cateninシグナルを薬剤で活性化することで、
骨髄間質細胞の疲弊が起こらず、骨形成能の回復と骨髄脂肪化の抑制が認められた。
このことからWnt/β-cateninシグナルの活性化が間質疲弊の治療ターゲットとなる可能性が示されました。

これらの結果から、骨折などの骨への損傷時には、骨髄間質細胞は損傷のたびに無限に再生能力を発揮できるわけではなく、一度の損傷によって細胞レベルでは永久的な間質疲弊が起こり、骨を作る能力を失ってしまうことが新たに明らかになりました。さらにその間質疲弊のメカニズムとして、損傷時のWnt/β-cateninシグナルが活性化しないことが原因であることが分かり、同シグナルを活性化することで間質疲弊を防ぎ、骨形成能が回復する治療ターゲットとなることが示唆されました。

【今後の展開、将来展望】
これらの成果は、再骨折、骨折後骨粗鬆症、脆弱性骨折、骨形成不全症などの、繰り返し骨損傷を受ける病態の理解につながることが期待されます。また、化学療法や放射線治療後の骨髄障害、骨髄不全症候群など、骨髄環境が繰り返し損傷を受ける疾患にも、同様の細胞疲弊の仕組みが関与している可能性があります。
さらに本研究では、Wnt/β-cateninシグナルの活性化によって、疲弊した骨髄間質細胞の骨形成能が回復することを示しました。本研究は主にマウスを用いた基礎研究であり、ヒトへの応用は、今後さらなる研究が必要ですが、骨髄間質細胞の疲弊を防ぐ、あるいは疲弊した細胞の機能を回復させる方法を開発できれば、将来的に骨折治癒を促進する治療法や、骨粗鬆症、難治性骨折、骨再生医療への応用が期待されます。

【用語解説】
※1 骨髄間質細胞:骨髄に存在する非血球・非血管系の間葉系細胞の総称。骨の中の骨髄に存在し、骨の形成、骨髄環境の維持、造血細胞の支持などに関わる細胞。損傷時には骨をつくる骨芽細胞へ分化し、骨再生に寄与する。
※2 骨髄脂肪細胞:骨髄の中に存在する脂肪細胞。加齢や骨粗鬆症、骨髄障害などで増加することがあり、骨形成能の低下と関連することが知られている。
※3 間質疲弊 stromal exhaustion:本研究で定義した、骨髄間質細胞が反復損傷後に骨をつくる能力を失い、脂肪細胞への分化に偏る状態。単なる老化とは異なり、損傷によって誘導される細胞機能低下状態を指す。
※4 Wnt/β-cateninシグナル:細胞の増殖、分化、組織再生などを制御する重要な細胞内シグナル伝達経路。骨では骨の形成や骨折後の治癒の際に骨をつくるための重要な役割を果たす。
※5 骨格幹細胞:骨や軟骨などの骨格組織の起源となる幹細胞。骨格の形成、維持、再生に強く貢献する。
※6 骨芽細胞:骨をつくる細胞。骨の基質(骨の土台の成分)を産生し、骨形成に中心的な役割を果たす。
※7 レプチン受容体(Lepr):体の栄養状態を伝えるホルモン「レプチン」を受け取る受容体タンパク。骨髄間質細胞に発現し骨代謝の調節に深く関与している。
※8 シングルセル解析:一つひとつの細胞における遺伝子発現を網羅的に調べる解析手法。多数の細胞が混在する組織の中で、どの細胞がどのような状態にあるかを詳細に調べることができる。

【本研究プロジェクトについて】
本研究は科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業(JPMJFR2111)、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(JP25H01073, JP24KK0168, JP21H03124, JP20KK0356)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP256f0137009)医学系研究支援プログラムにおける免疫ダイナミクス解析コホート・AIを駆使して難治性疾患に挑むPhysician Scientist育成と研究力向上計画、上原記念生命科学財団、神澤医学研究振興財団、中冨健康科学振興財団、武田科学振興財団、長崎大学MIRAI-PH 創出プログラムなどの支援のもとで行われたものです。

【論文情報】
Injury-driven stromal exhaustion disrupts intrinsic regenerative capability

Sixun Wu1,2, Hirotaka Matsumoto3,4, Keita Kondo1, Aiko Kuroda1, Jumpei Morita1, Takeshi Moriishi1, Shawn A. Hallett5, Yuki Matsuo1, Azumi Noguchi1, Mitsuaki Ono6, Makoto Abe7, Kosei Ito8, Shinsuke Ohba7, Noriaki Ono9, and Yuki Matsushita1,2*

1. Department of Skeletal Development and Regenerative Biology, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
2. Leading Medical Research Core Unit, Life Science Innovation, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
3. School of Information and Data Sciences, Nagasaki University
4. Omics AI Research Team, RIKEN Center for Biosystems Dynamics Research
5. Department of Periodontics and Oral Medicine, University of Michigan School of Dentistry
6. Department of Oral Rehabilitation and Regenerative Medicine, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences
7. Department of Tissue and Developmental Biology, Graduate School of Dentistry, The University of Osaka
8. Department of Molecular Tumor Biology, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
9. University of Texas Health Science Center at Houston School of Dentistry

* Corresponding author
掲載誌:Nature Communications
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-76108-z

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