2026年09月24日
長崎大学教育学部/大学院総合生産科学研究科の大庭伸也准教授、同大学教育学部卒業生の吉村愛菜、山田知帆乃、松田彩葉の研究グループは、オスが背中に卵を背負うことで知られる水生昆虫のコオイムシ類2種を対象に、卵を背負っていないオスに対するメスの配偶者選択の傾向を比較した結果、近縁種でありながら、メスがオスを選ぶ基準が大きく異なることが明らかになりました。本研究は、コオイムシ類における配偶者選択や父育行動の進化を理解するうえで重要な知見を提供するものです。
【研究の背景】
コオイムシ科(Belostomatidae)は、オスが背中に卵を背負い、孵化まで保護する「父育行動」をすることで有名な昆虫です(図1)。オスは卵が孵化するまで、卵に酸素と水分供給を行うために、陸地と水中を行き来します。先行研究でメスは卵を背負っているオスを好むことが知られていますが、野外では卵を背負っていないオスと遭遇することも多く、その際にメスがどのような手がかりを使って相手を選んでいるかは、ほとんど分かっていませんでした。
図1.卵を背負うオス(オオコオイムシ) |
| 関連研究:https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science106.html |
【観察方法】
本研究では、「オオコオイムシ(Appasus major)」と「コオイムシ(Appasus japonicus)」の2種を対象に、2匹のオスのうち、どちらのオスにメスが産卵するのか観察を行いました。(図2)
各実験では1匹のメスと2匹のオスを同じ容器に入れ、
・オスの体サイズ(前胸幅)
・オスの求愛行動(波紋を出すポンピング回数)
を計測し、翌朝にどちらのオスに卵が産みつけられたかを確認しました。背負った卵の数が多いオスを勝者、少ない方を敗者として記録しました。
図2.観察容器の模式図オスとメスの間には透明な板で仕切り、求愛行動を観察。その後透明な板を外して、1晩自由に交配させた。 |
【主な結果】
① オオコオイムシ:「求愛の熱心さ」が決め手
求愛行動が多いオスほどメスに選ばれ、オスの体のサイズは関係ありませんでした(図3)。
② コオイムシ:「小さいオス」が選ばれる
求愛行動はほとんど関係なく、小さいオスほどメスに選ばれました(図3)。
図3.観察結果 |
【なぜ違いが生じるのか?】
コオイムシ類では、1匹のオスの背中の上に複数のメスが順番に卵を産みつける「共同卵塊」が形成されます。最初のメスが産卵した後も、ほかのメスが次々と卵を産み足しますが、オスが卵を受け入れるために求愛行動(中脚後脚を屈伸させて波を起こす行動)を続けると、その間は天敵に見つかりやすくなります。一方、卵を背負ったオスが卵保護モードに入ると、求愛をやめて、岸際の草の下などに隠れて天敵から見つからないように卵保護を行うようになります。
●オオコオイムシ:求愛行動の持久力が“父育能力”の指標になる
卵のサイズが大きく、卵保護の負担が大きい種です。大きなオスも小さなオスも、背中が満杯になる前に求愛行動をやめて卵を産み足させなくなるため、メスからすると、オスの体サイズだけでは、いつまで求愛行動を続けるのかを知る手がかりになりません(図4右)。そのためメスは、体サイズよりも長く求愛行動できるオスを、体力や卵保護能力の高い個体であるとして選んでいる可能性があります。
●コオイムシ:小さいオスは早く“父親モード”に切り替わる
オスのサイズが大きいほどたくさんの卵を背負う傾向があるため、小さいオスは背中が早く満杯になり、すぐに求愛行動をやめて卵保護に移行します。最初に卵を産み付けるメスにとっては、小さなオスに卵を託すと、そのオスが比較的早く卵保護モードに移行するため(図4左)、「自分の卵が確実に守られる」メリットがあります。そのため、大きなオスよりも小さなオスを選ぶと考えられます。
![]() 図4.コオイムシ類2種のオスの体サイズと背負える卵の数の関係 |
【研究の意義】
本研究は、同じような繁殖システムを持つ近縁種でも、メスが使う手がかりがまったく異なることを示しました。これは、配偶者選択・父育行動の理解に新たな視点を提供するものです。
【論文情報】
Ohba S, Yoshimura A, Yamada C, Matsuda I (2026) When males carry no eggs: species-specific mate-choice cues in two water bug species. Ethology, Early View
(オスが卵を背負っていない時、コオイムシ類2種のメスの配偶者選択)
・著者名と所属
大庭伸也(長崎大学教育学部/大学院総合生産科学研究科 准教授)
吉村愛菜(長崎大学教育学部:2016年度卒業)
山田知帆乃(長崎大学教育学部:2017年度卒業)
松田彩葉(長崎大学教育学部:2019年度卒業)
・論文(英文)ダウンロード
DOI:https://doi.org/10.1111/eth.70110
