2026年09月28日
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻保健科学分野(神経内科学分野)の佐藤克也教授らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭葉変性症(FTLD)の原因蛋白質であるTDP-43の異常凝集体を、脳脊髄液(CSF)から高精度に検出できる新たな検査法を開発しました。
本研究では、従来法より簡便な「TDP-43 RT-QuIC法※1」を構築し、ALSやFTLD患者の脳脊髄液中に存在する異常TDP-43蛋白質※2のシード活性※3を高い特異度で検出することに成功しました。さらに、神経変性マーカーであるニューロフィラメント軽鎖(NfL)※4との関連も明らかとなり、将来的な早期診断や治療効果評価への応用が期待されます。
※1 RT-QuIC法:微量の異常蛋白質を増幅して検出する検査技術。
※2 TDP-43蛋白質:神経細胞の機能維持に重要な役割を担う蛋白質。
ALSやFTLDで異常凝集がみられ、これらの疾患の代表的な病理学的特徴の一つとされている。
※3 シード活性:異常な蛋白質が、周囲の正常な蛋白質を次々と異常な状態へ変えて増えていく性質。
※4 ニューロフィラメント軽鎖(NfL):神経細胞が障害を受けると脳脊髄液や血液中に増加する蛋白質。神経変性の程度を示す指標として用いられる。
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【研究のポイント】
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭葉変性症(FTLD)の病理学的特徴である異常TDP-43蛋白質を検出する簡便なRT-QuIC法を開発した。
・ALS患者では70%、FTLD患者では50%で脳脊髄液中のTDP-43シード活性を検出した。
・健常対照群(健康な人)および他疾患群(他の病気の患者)では99%以上の高い特異度を示した。
・TDP-43陽性例では脳脊髄液中NfL濃度が有意に高値であり、病態評価への応用が期待される。
・将来的な神経変性疾患の早期診断や臨床試験への応用が期待される。
【研究の背景】
ALS(筋萎縮性側索硬化症)および前頭側頭葉変性症(FTLD)は進行性の神経変性疾患であり、多くの症例でTDP-43と呼ばれる蛋白質の異常凝集が認められます。しかし、生体内で病的TDP-43を検出する方法はこれまで限られており、早期診断や病態評価を行う上で大きな課題となっていました。
近年、異常蛋白質の増幅検出技術としてRT-QuIC法が注目されていますが、TDP-43を対象とした
検査法は手技が複雑で、施設間で再現性を確保することが難しいという問題がありました。
【研究内容】
佐藤教授らの研究グループは、TDP-43蛋白質の凝集を高感度に検出するため、独自に最適化したTDP-43 RT-QuIC法を開発しました。
まず、病理学的に診断が確定したALSおよびFTLD患者の脳組織を用いて測定条件を検討し、異常TDP-43を検出するための反応材料としてTDP-25-SUMO融合蛋白を用いることで安定した検出方法を確立しました。さらにALS患者50例、FTLD患者10例、健常対照群および他疾患群200例の脳脊髄液検体を解析し、異常TDP-43のシード活性を評価しました。同時に神経障害マーカーであるNfLやタウ蛋白との関連についても解析を行いました。
【研究結果】
・ALS認知症合併例の70%、ALS単独例の40%、FTLD患者の50%でTDP-43シード活性を検出した。
・対照群200例中199例が陰性であり、99.5%の高い特異度を示した。
・ALS群とFTLD群では異なる増幅パターンが観察され、病態ごとのTDP-43凝集体の構造差を反映している可能性が示唆された。
・TDP-43シード活性陽性例ではNfL濃度が有意に高値であり、神経変性の程度を反映する可能性が示された。
【結論】
本研究により、脳脊髄液中の異常TDP-43を簡便かつ高特異度で検出できるRT-QuIC法の開発に成功しました。
本手法はALSおよび前頭側頭葉変性症に共通するTDP-43蛋白病理を生体内で検出できる可能性を示しており、今後の早期診断、病態評価、さらには新規治療薬開発のための臨床試験におけるバイオマーカーとしての活用が期待されます。
【謝辞】
本研究は、厚生労働科学研究「希少・難治性疾患に関する厚生労働政策研究」、プリオン病・スローウイルス感染症研究班、希少・難治性疾患政策企画・評価研究班、日本医療研究開発機構(AMED)、厚生労働科学研究費補助金、プリオン病サーベイランス・感染制御研究班の助成を受けて実施されました。
【論文情報】
雑 誌 名: Biomolecules
タイトル:
D0etection of TDP-43 Proteinopathies in Brain and Cerebrospinal Fluid Using
Seed Amplification Assay
著 者:
佐藤 克也 (長崎大学医歯薬学総合研究科 医療科学専攻保健科学分野(脳神経内科学専攻))
嶋村 美加 (長崎大学パンデミック総合研究センター)
藤本 武士 (佐世保市総合医療センター 脳神経内科)
北山 通朗 (川崎医科大学総合医療センター 内科)
赤城 明生 (愛知医科大学 加齢医科学研究所)
岩崎 靖 (愛知医科大学 加齢医科学研究所)
佐藤 悠 (長崎北病院 神経内科)
一ノ瀬克浩 (長崎北病院 神経内科)
佐藤 聡 (長崎北病院 神経内科)
岩田 育子 (北海道大学大学院医学研究院 神経病態学分野)
矢部 一郎 (北海道大学大学院医学研究院 神経病態学分野)
URL: https://www.mdpi.com/1467-3045/48/8/824
