2013年08月20日
【神経難病HAMの新しい治療法としてのプロスルチアミン療法】
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学
准教授 中村龍文
HTLV-I関連脊髄症 (HAM) に対する新しい治療法としてのビタミンB1製剤 プロスルチアミン (商品名アリナミン) 療法の有効性を「Efficacy of prosultiamine treatment in patients with HTLV-I-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis: results from an open-label clinical trial」と題して、中村龍文・長崎大学大学院准教授 (感染免疫学) は同大の松尾朋博助教(泌尿器科学)らとの共同研究の成果を、8月15日付の英国の電子版医学誌「BMCメディシン」に発表しました。
http://www.biomedcentral.com/1741-7015/11/182/abstract
HAMは厚生労働省指定の神経難病で、疫学調査で患者は全国で約3000人と推定されています。その中でもHTLV-I感染者が多い九州に多発している疾患です。本疾患はHTLV-Iに感染したリンパ球が脊髄内に浸潤することによって生ずる慢性脊髄炎によって引き起こされます。臨床的には両下肢運動機能障害と排尿・排便障害が主症状です。本疾患に対して副腎皮質ホルモン剤やインターフェロンーαによる治療法がとられていますが、その効果は不十分であり、長期投与における副作用の出現など多くの問題点があります。一旦発症すれば確実に進行性である本疾患に対して安全で新しい治療法の開発が切望されているのが現状です。
中村らはプロスルチアミンに抗HTLV-I効果があることを突き止め、このことをもとにHAM患者男女計24人を対象に臨床研究を実施いたしました。プロスルチアミン経口薬投与を1日1回、12週間続けました。その結果、下肢のつっぱりのあった19人中15人で症状が軽減し、歩行時間や階段を降りる時間が短縮し、下肢運動機能の改善がみられました。また、排尿機能については、膀胱容量の増大と排尿筋圧の上昇、そして排尿筋過活動が16人中11人で消失するなどの改善がみられました。末梢血HTLV-Iプリウイルス量は平均で約15%減少。半減した患者も数人いました。投与中、腹部不快感を3人の患者で訴えましたが、いずれも軽度で、重篤な副作用はありませんでした。
以上の臨床研究によりプロスルチアミン療法の有効性と安全性が検証され、本薬剤は有効なHAM治療薬となる可能性が高く、今後は薬事承認に向けた臨床試験を必要としています。