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長崎の海でウミウシ82種を記録!冬から春に多く見られる傾向が明らかに −半世紀の変化を示した前回研究から一歩前進、未来の海を見守る基準を確立−

長崎大学水産学部の八木光晴准教授と大学院総合生産科学研究科修士課程修了生の加藤理子氏は、長崎県沿岸の2地点において、2024年2月から2025年11月にかけてウミウシ類の定量的な潜水調査を実施し、合計82種、891個体を記録しました(写真1)。その結果、ウミウシ類の種数と個体数は、全体として冬から春に多く、夏から秋に少なくなる傾向が明らかになりました。また、同じ沿岸域でも調査した場所によって確認される種類や個体数に違いが見られました。

同研究グループは、2026年3月3日付長崎大学プレスリリース「20年で、海が『別世界』に  ー長崎沿岸のウミウシ群集の長期データで示された温暖化影響-」を発表し、過去、半世紀以上の記録から、長崎県沿岸のウミウシ群集(同じ場所に生息するウミウシの集まり)で熱帯・亜熱帯性種の割合が増加し、寒冷な海域に分布する種類が確認されなくなっていることを報告しました。しかし、こうした長期的な変化をより正確に評価するためには、ウミウシ類が本来持つ季節変動のメカニズムを把握する必要があります。今回の研究は、前回の研究で示した課題を受け、調査面積と方法を統一した定量調査によって、現在のウミウシ群集の季節変動を記録したものです。

本研究で得られたデータは、将来の調査結果と比較するための基準(ベースライン)となり、長崎県沿岸の生物多様性や海洋環境の長期的な変化を捉えるうえで重要な基礎データとなることが期待されます。

本研究は、2024年度公益財団法人日本科学協会の笹川科学研究助成の支援を受けて実施され、その成果は2026年11月1日付で海洋科学分野の国際学術誌「Regional Studies in Marine Science」に掲載されました。

写真1 長崎県沿岸で確認された多様なウミウシ類

【背景】
20年で「別世界」になった海、その変化をどう捉えるのか?
ウミウシ類は、色彩や形態が多様な海産軟体動物で、海藻やカイメン、刺胞動物など、さまざまな生物と密接な関係を持ちながら生活しています。そのため、ウミウシ群集の変化は、沿岸生態系の状態を理解するための手がかりとなる可能性があります。
同研究グループは、2026年3月に長崎県沿岸のウミウシ群集について過去半世紀以上の記録を比較した研究成果を発表しました(Kato and Yagi, 2026)。この研究では、2001年から2003年に42.9%だった熱帯・亜熱帯性種の割合が、2023年から2024年には55.3%に増加していることが明らかになりました。一方、過去に記録されていた寒冷な海域に分布する種類は、近年の調査では確認されませんでした。これらの結果は、長崎県沿岸の海洋環境の変化に伴い、ウミウシ群集の構成が変化している可能性を示すものでした。
しかし、過去の調査では、調査時期や調査面積、調査方法が必ずしも統一されていませんでした。例えば、ある時期にウミウシの個体数が少なかったとしても、それが長期的な減少を意味するのか、季節による自然な変動なのかを判断することは容易ではありません。そこで同研究グループは、同じ場所を、同じ方法、同じ面積で繰り返し調査する手法を採用しました。
2026年3月のプレスリリースでは、将来の海の変化を検証するための基準を作るべく、定量的な潜水調査を進めていることを紹介しました。今回の研究は、その取り組みを具体的な成果としてまとめたものです。

【研究手法・成果】
① 22か月にわたり、一定面積のウミウシを繰り返し調査
研究グループは、長崎県沿岸の辰ノ口と野母崎赤瀬の2地点(図1)において、2024年2月から2025年11月まで潜水調査を繰り返しました。各地点に2本のベルトトランセクト(一定幅の帯状調査区)(図1)を設定し、1回の調査で各地点合計400平方メートルを観察しました。この方法では、調査面積を統一することで、時期や地点ごとの記録を比較しやすくなります。また、調査時には水温を記録し、ウミウシ類の種数、個体数、多様性に加え、出現する種類の構成がどのように変化するかについて調べました。
その結果、全調査期間を通じて、両地点には共通して出現した種類もあり、全体で82種、891個体のウミウシが確認されました。
• 辰ノ口:48種、509個体
• 野母崎赤瀬:56種、382個体

図1 調査地点(左)と調査方法(右)。(a)および(b)は辰ノ口、(c)および(d)は野母崎赤瀬。
各地点に設置したベルトトランセクトに沿って、一定面積内に出現するウミウシ類の種類と個体数を記録しました。

② ウミウシは冬から春に多く、夏から秋に少ない
今回の調査で特徴的だったのは、ウミウシ類の種数と個体数に季節的な変動が見られたことです(図2)。両地点とも、全体として冬から春に多くの種類や個体が観察され、夏から秋には少なくなる傾向がありました。
ウミウシは色鮮やかな姿から、夏の海を連想させる生き物かもしれません。しかし、今回の結果は、長崎県沿岸では冬から春が多様なウミウシを観察できる重要な季節であることを示しています。一方、この結果だけで、水温がウミウシの増減を直接引き起こしていると結論づけることはできません。餌生物の季節変化や繁殖、生息環境など、複数の要因が関係している可能性があります。


図2 ウミウシ群集の種数・多様度指数の季節変動。
(a)は種数、(b)と(c)は種の多様性を示す指数。

③ 未来の研究者に残す「現在の海」の記録
今回の研究の重要な成果は、82種のウミウシを確認したことだけではありません。いつ、どこで、どの種類が、何個体確認されたのかを、統一された調査面積に基づいて記録したことに大きな意義があります。こうしたデータが蓄積されれば、今後、同じ場所でウミウシの種類や個体数が変化した際に、それが通常の季節変動の範囲内なのか、長期的な変化の兆候なのかを検討するための重要な手がかりとなります。今回の研究は、長崎県沿岸のウミウシ群集について、将来の継続的なモニタリングに利用できる定量的な基礎データを提供するものです。

【研究者のコメント】
前回の研究では、過去50年以上にわたる記録が残されていたからこそ、長崎の海のウミウシ群集が近年大きく変化していることを明らかにできました(図3)。しかし、海の変化を正確に捉えるためには、現在の海がどのような状態にあり、生き物が季節によってどのように変化するのかを知る必要があります。私たちの研究は、過去の記録に基づいて海の変化を読み解く段階から、現在の海を定量的に記録し、将来の変化を検証するための基準をつくる段階へと進んでいます。今後も、誰が実施しても再現可能な統一した手法で調査を続けることで、通常の季節変動と長期的な環境変化を区別するためのデータが蓄積されていきます。私たちが今見ている海は、10年後、20年後には過去の海になります。今度は私たちが、未来の研究者のために現在の海を記録していく番なのです。

図3 調査年代によるウミウシ類の分布特性(寒冷性・温帯性・熱帯・亜熱帯性)に基づく
相対個体数割合の変化(前回の研究)。
近年の調査では、過去に確認されていた寒冷性のウミウシ類が記録されず、
熱帯・亜熱帯性の種類が占める個体数の割合が増加していることが分かります。
(Kato and Yagi, 2026, PeerJ 14:e20870より引用)

【今回の研究】
タイトル : Seasonal variation in sea slug assemblages at two warm-temperate rocky reefs in northwestern Kyushu, Japan: a quantitative baseline for future monitoring
(九州北西部の温帯性岩礁域2地点におけるウミウシ類群集の季節変動:将来のモニタリングに向けた定量的基礎データ)
著  者 : Riko Kato, Mitsuharu Yagi(加藤理子・八木光晴)
掲載誌 : Regional Studies in Marine Science (リージョナル スタディーズ イン マリン サイエンス)(2026年)
DOI: https://doi.org/10.1016/j.rsma.2026.105605

【前回の研究】
タイトル | A different world: temporal changes in the community structure of sea slugs (Heterobranchia) in northwest Japan spanning more than a half-century
(別世界のような変化―日本北西部におけるウミウシ群集構造の半世紀にわたる変遷―)
著  者 | Riko Kato, Mitsuharu Yagi(加藤理子・八木光晴)
掲載誌 | PeerJ(ピアージェイ) (2026年)
DOI: https://doi.org/10.7717/peerj.20870

※2026年3月3日付プレスリリース:
https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science438.html
※水産環境科学研究室ホームページ: 
https://sites.google.com/view/yagi-lab/