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マラリアで誘導される新しいタイプの免疫制御性T細胞を発見

1. 発見の概要

医歯薬学総合研究科の由井克之教授・木村大輔助教らの研究グループは、マラリア原虫感染で誘導される新たな免疫制御性T細胞を発見しました。免疫応答においては、アクセルとブレーキの調節が重要です。免疫応答にブレーキをかけるT細胞は、大阪大学免疫学フロンティア研究センター坂口志文教授の発見した制御性T細胞が有名です。今回、由井教授・木村助教らが発見した免疫制御性細胞は、細胞の起源も免疫抑制の仕組みも従来から知られていた制御性T細胞とは異なるこれまで知られていなかった制御性T細胞です。

由井教授・木村助教らは、このユニークな制御性T細胞がマラリア原虫感染マウスにおいて誘導され、インターロイキン-27というサイトカイン(たんぱく質)を介してマラリア原虫に対する免疫応答を抑制し、原虫の排除を妨げることを発見しました。この細胞の活性を調整することにより、感染防御能力やワクチン効果を強化することが期待されます。さらに、感染症を初めとする種々免疫関連疾患の新しい治療法に結びつく可能性がある発見です。

2. 背景

感染症は、微生物が体内に侵入して増殖や成長することにより引き起こされます。それに対して免疫応答が微生物と戦い、微生物を排除して感染症は治癒に向かいます。しかしながら微生物からの防御が激しい戦いになると、それ自体が有害で、周辺組織を傷害し、時には死に至る重篤な病態を引き起こします。従って私たちの体には、免疫応答を適度に制御し、感染防御と自己組織傷害のバランスを保つ仕組みが備わっています。特に、微生物が体内に長期間残る慢性の感染症においては、このような免疫制御が重要であると考えられますが、その仕組みについては今まで十分に理解されていませんでした。一方、マラリアでは他の感染症に罹りやすくなるなど、免疫が抑制された状態となることが知られていますが、その仕組みについては十分に理解されていませんでした。今回の発見は、この感染に伴う免疫抑制に、従来知られていなかった新しいタイプの制御性T細胞が関わることを明らかにした研究です。

3. 研究内容

マウスを用いたマラリア実験モデルにおいて、由井教授と木村助教は、マウスの免疫司令塔であるT細胞の増殖を促すサイトカイン、インターロイキン-2の産生が顕著に低下していることに着目しました。そして、このインターロイキン-2産生低下は、T細胞が産生するインターロイキン-27による抑制によることを突き止めました。インターロイキン-27は、マクロファージ(大食細胞)などの細胞が産生すると信じられていましたので、T細胞がこのサイトカインを産生し、免疫応答を抑制することは新発見です。またこのT細胞は、マラリア原虫を特異的に認識するT細胞であり、従来から知られている制御性T細胞とは異なる種類の細胞でした。さらに、このインターロイキン-27を産生するT細胞は、マラリア原虫を認識して防御免疫に働くT細胞とも異なる種類の細胞であることから、Tr27細胞と命名することを提案しました。そして、Tr27細胞がマラリア原虫感染で出現し、防御免疫応答を抑制し、その結果マラリア原虫の排除には負の働きを有することを明らかにしました。

4.意義

マラリアにおいて病態が悪化する原因のひとつとして、この新しい制御性T細胞が関与している可能性があり、この細胞の働きを抑えることによりマラリア原虫に対する免疫応答を改善することが期待できます。また、今回マラリア原虫感染のマウスモデルを用いましたが、結核患者でも同様な制御性T細胞の存在を示唆するデータが中国のグループにより示唆されており、マラリアばかりでなく、多くの感染症や免疫が関わる疾患において、この新規制御性T細胞が働いている可能性があります。従って、この発見は、マラリアの病態を規定する新しい種類の制御性T細胞の発見ですが、他の感染症や免疫疾患においても同様な制御性T細胞が存在する可能性があり、免疫関連疾患の治療に広く応用される可能性を有しています。

5. 発表雑誌

雑誌名:Immunity

論文タイトル:Interleukin-27-producing CD4+ T cells regulate protective immunity during malaria parasite infection

著者:Daisuke Kimura, Mana Miyakoda, Kazumi Kimura, Kiri Honma, Hiromitsu Hara, Hiroki Yoshida, and Katsuyuki Yui