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スーパーコンピューター「DEGIMA」を用いたプリオン病の治療薬開発に光明

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座(西田教行教授)の石橋大輔准教授らのプリオン病研究グループと同講座で量子化学を専門とする石川岳志特任准教授は、長崎大学先端計算研究センターの濱田剛准教授と共同で、狂牛病などで知られるプリオン病の治療薬の候補化合物を効率よく探索する手法を開発しました。

プリオン病はウシやヒツジ、ヒトなどに起こる人獣共通感染症で、ヒトのプリオン病である「クロイツフェルト・ヤコブ病」は、日本でも毎年約100万人に1人の割合で発生しています。感染すると確実に死に至る恐ろしい病気で、これまで、さまざまな治療薬開発研究が行われてきましたが、まだ有効な治療法が見つかっておらず、厚生労働省は、同省が「難治性疾患克服研究事業」で対象とする疾患の一つに指定しています。

一方で、プリオン病の原因は突き止められつつあります。プリオン病は、正常型プリオン蛋白の構造変換によって生じた異常型プリオン蛋白が脳内に蓄積することで発症します。そこで石橋准教授らは、「正常型プリオン蛋白の構造変換を抑制する低分子化合物が治療薬の候補となる」という仮説を立て、治療薬開発を進めています。

今回の研究では、正常型プリオン蛋白との結合能をもつ化合物を効率よく探索するために、濱田准教授が開発したスーパーコンピューターの「DEGIMA」で超高速計算を実施し、膨大な種類の化合物とヒトの正常型プリオン蛋白との結合についてシミュレーションを行った点が大きな特徴となっています。タンパク質と化合物の結合性を計算するソフトウエアは、濱田准教授らが独自に開発したものです(Nagasaki University Docking Engine: NUDE)。

研究では、まず計算によって候補化合物の結合能を調べ、そのうち上位約100種の化合物について、実験的に正常型プリオン蛋白との結合能評価、プリオン感染細胞およびプリオン感染マウスでの薬効評価を行いました。この結果、複数の化合物に、明らかな異常型プリオン蛋白の抑制やマウスの脳病変の軽減が確認されました。つまり、DEGIMAの計算によって抗プリオン効果を有する化合物を効率よく見つけることができたと言えます。この研究結果が、難病中の難病と呼ばれるプリオン病の克服に向けた第一歩となることが期待されます。

一方、今回の研究結果は、クロイツフェルト・ヤコブ病の治療薬開発だけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病など、プリオン病と同様のコンフォメーション病(たんぱく質の立体構造が変化して起きる病気)の治療薬開発にも貢献すると考えられます。また、DEGIMA/NUDEインシリコ創薬システムを利用することで、感染症をはじめとするさまざまな難病に対する迅速な創薬が可能になると期待しています。

今回の新薬候補の開発プロセスおよびその有用性に関する研究成果は、平成22年度の長崎大学重点研究課題「リアルタイム情報処理による技術融合」に採択されたもので、本学における医工連携事業の一つとして実施したものです。研究成果は、米国の科学誌『Cell』と英国の医学誌『Lancet』が共同で発行するオンライン医学誌『EBioMedicine』に6月8日に発表しました。

発表論文:
Daisuke Ishibashi, et al. EBioMedicine. 2016
『Structure-based drug discovery for prion disease using a novel binding simulation』
(和訳:タンパク質構造に基づく新規結合シミュレーションを使ったプリオン病治療薬の開発)
DOI: 10.1016/j.ebiom.2016.06.010in press