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長崎および沖縄における火山起源の高濃度PM2.5の観測

8/2-4にかけて九州各地で高濃度のPM2.5(直径2.5ミクロン以下の微小粒子状物質)が観測され、8/5には沖縄で高濃度のPM2.5が観測されました。また、8/6にも長崎・五島列島で一時100μg/m3を超えるPM2.5が観測されています。一連の現象は、小笠原諸島の西之島の火山噴火が主な原因ではないかと推測されます。しかしながら、火山灰のうち粒径が小さな粒子と、二酸化硫黄(SO2)などの火山ガスが大気中で酸化され二次的に生成した硫酸や硫酸塩の粒子のどちらが寄与しているかは未解明でした(図1参照)。

火山灰や火山ガスの輸送過程のイメージ

図1:火山灰や火山ガスの輸送過程のイメージ。火山ガスから二次的に生成した粒子と直径2.5μm以下の火山灰の両方が、PM2.5(直径2.5μm以下の微小粒子状物質)に寄与しうる。

長崎大学環境科学部では、長崎大学および周辺で小型計測器を用いたPM2.5の観測や粒子のフィルター捕集を行うとともに、琉球大学および名古屋大学と共同で琉球大学(沖縄県中頭郡西原町)においてエアロゾル粒子の粒径分布(粒子の大きさの分布)の連続観測を実施しています。8/3から8/5に、九州南部の火山の影響が無視できると考えられる沖縄の琉球大学で観測された粒子の粒径分布を解析したところ、PM2.5の重量濃度がピークに達した8/5には、1ミクロン以下の微小粒子と1ミクロン以上の粗大粒子の両方の粒子が大きく増加しました(図2参照)。火山灰は、主に1ミクロン以上の粒子直径を有し、二次生成粒子は、主に1ミクロン以下の粒子直径を有すると考えられることから、沖縄で観測された西之島の火山の影響によるPM2.5濃度の増加には、火山灰と火山ガス起源の二次生成粒子の両方が寄与している可能性が高いことがわかりました。

(左)沖縄市におけるPM2.5および二酸化硫黄ガスの濃度(沖縄県による速報データ)、(右)8/3, 8/4, 8/5の12:00-13:00に琉球大学で観測されたエアロゾル粒子の粒径分布

図2 (左)沖縄市におけるPM2.5および二酸化硫黄ガスの濃度(沖縄県による速報データ)、(右)8/3, 8/4, 8/5の12:00-13:00に琉球大学で観測されたエアロゾル粒子の粒径分布。右図の破線の左側がPM2.5に対応し、粒径の異なる2つのピーク(異なるタイプの粒子)が存在することがわかる。注1)

本件に関するコメントや成果は、長崎新聞、琉球新報、沖縄タイムス、長崎や沖縄のニュース番組などで紹介されました。今後、フィルターに採取したエアロゾル粒子の化学分析を実施するなど、より詳細な解析を進める予定です。
西之島の火山活動は、活発な状態が続いていると考えられ、今後も気象条件によっては、日本列島に比較的高濃度のPM2.5が到達する可能性があります。高濃度のPM2.5を吸引することにより、呼吸器疾患や循環器疾患を引き起こす可能性が指摘されており、特にぜんそく等の既往症を有する方は、ご注意ください。

 

注1)本測定装置で得られる直径は光散乱相当径であり、PM2.5重量濃度の測定に用いられる空気力学径とは異なるため、厳密には両者の違いやPM2.5重量濃度測定における分級特性(捕集効率曲線)を考慮する必要があります。また、粒径区分毎の平均濃度の推定においては、粒子の比重・屈折率・形状、粒子中の水分などによる誤差が考えられます。

 

【お問い合わせ先】
中山 智喜
長崎大学総合生産科学域(環境科学系) 准教授
TEL:095-819-2772
E-mail: t-nakayama*nagasaki-u.ac.jp (*を@に変えてください)