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新規組織透明化試薬を開発:病理診断の応用へ向けた第1歩

2020年12月15日

図 透明化中の組織サンプル
図 透明化中の組織サンプル

長崎大学大学院医歯薬総合研究科(薬学系)の麓伸太郎准教授らは、新しい組織透明化試薬を開発しました。

ポイント

・これまで、透明度の高い組織透明化手法では界面活性剤を利用して脂質を積極的に除くのが一般的で、界面活性剤を含有しない組織透明化法では透明度が不充分でした。

・本研究では、界面活性剤を含有せずに細胞膜などの脂質構造を保持しつつ、高い透明度を両立することに成功しました。本試薬は、透明化工程が1段階で簡便であり、迅速(数時間)かつ効率的な組織透明化を実現する三拍子そろった手法です。

・本試薬は、pHを幅広い範囲で調節することも可能で、従来難しかった低分子の蛍光物質の組織中空間分布を可視化することができます。リポソームなどのドラッグデリバリーシステム製剤の組織中空間分布解析や病理診断への応用が期待されます。

詳細

   組織が不透明なのは脂質など様々な成分が混在することで屈折率が不均一であり光が直進しないためです。従って、一般的には組織を薄くスライスして組織構造などを観察します。ここで組織が透明にできれば、組織構造のみならず、抗体医薬や核酸・遺伝子治療用製剤などの生体内運命等、様々な現象が立体的に3Dで観察できるようになります。これまでに様々な組織透明化技術が開発されてきましたが、透明度の高い方法は脂質構造を保持できず、脂質構造を保持しようと思うと透明度が不充分というジレンマがありました。

   そこで麓准教授らは、脂質構造を保持しつつ効率的な組織透明化試薬の開発に着手しました。従来の手法で利用されていた化合物をヒントに、高分子かつアミノ基があるものは透明化効率が優れるだろうという発想でポリエチレンイミンという高分子に着目しました。ポリエチレンイミンにも組織透明化作用がありましたが、従来の手法で用いられていた尿素を組み合わせることでさらなる組織透明化を達成できました。組織内の生体イベント・状態を可視化できることから、Seebest(SEE Biological Events and States in Tissues)と名付けました。Seebestは、界面活性剤を含有せず、細胞膜を含めた脂質構造を保持することができるうえ、高い透明度を誇ります。従来、2種類以上の試薬に浸漬するのが一般的でしたが、Seebestでは1種類で済み簡便で時間の短縮が可能です。ポリエチレンイミンは、幅広いpH(5〜11程度)で緩衝作用があるため、細胞膜保持と相まって、様々な蛍光物質を細胞内に留めて観察することができます。ポリエチレンイミンは時間経過とともに水中で黄色く着色しますが、プロピレンオキシド変性ポリエチレンイミンを用いることでこの問題を解決することもできました。

   本研究では、蛍光タンパク質、血管構造、リポソームや酸化ストレス発生部位の可視化を実証しました。その他、蛍光標識抗体医薬の体内動態解析や、将来的には非アルコール性脂肪肝炎(NASH)やがんなどの疾患において生検の病理診断への応用も期待されます。

   本研究は、久留米大学の太田啓介教授、岐阜薬科大学の平山祐准教授らと共同で行ったものです。
本研究成果は、2020年11月9日に国際学術誌「Pharmaceutics」のオンライン版で公開されました(https://www.mdpi.com/1999-4923/12/11/1070)。
また、日経産業新聞(2020年12月11日付6面)でも紹介されました。

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