HOME > Research > 詳細

Research

ここから本文です。

世界初、Pt2Ag3多核サンドイッチ錯体から円偏光発光を観測−3Dディスプレイ技術の根幹、円偏光発光技術の新たな手法−

概 要

    工学研究科の馬越啓介教授・堀内新之介助教の研究グループは、3つのAgイオンをPt錯体ユニットで挟み込んだ発光性多核サンドイッチ錯体の合成に成功しました。また、ドイツ・ドルトムント工科大学Guido H. Clever教授の研究グループとの国際共同研究によって、得られた多核サンドイッチ錯体が円偏光発光を示すことも明らかにしました。
    多核サンドイッチ錯体から円偏光発光を観測したのは世界で初めてです。
円偏光発光を示す材料開発は3Dディスプレイ技術の根幹を担っており、この成果は円偏光発光を示す機能性材料を作り出す新しい方法論になると期待されます。
   本研究成果は、ドイツのWiley-VCH社が出版する「Angewandte Chemie International Edition」誌(IF : 12.959)に3月23日にWeb掲載されました。加えて同誌の上位10%の論文にあたるHighly Importantという高い評価を受けてHot paperに選ばれるとともに、inside back coverに扉絵が掲載されることになりました。

「Angewandte Chemie International Edition」誌   

掲載された扉絵

※Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ・ケミー)とはドイツの化学会誌で、サイエンス、ネイチャー姉妹誌などに次ぐ、化学分野の最高峰の学術雑誌です。

研究の背景

金属イオンを有機分子で挟み込んだ分子は、「サンドイッチ錯体」と呼ばれています。このサンドイッチ錯体の発見は、有機金属化学の発展に大きく貢献したとして、1973年にErnst Otto FischerとGeoffrey Wilkinsonにノーベル化学賞が与えられています。
    近年ではサンドイッチ錯体の構造概念も拡張され、複数の金属イオンが挟み込まれた「多核サンドイッチ錯体」も合成可能であることが示されています。そして、そのサンドイッチ構造に特有の構造変換や反応性が数多く見出されてきました。しかしこれまでの研究報告例では、その興味深い構造と反応性に関するもののみであり、多核サンドイッチ構造に由来する特徴的な光学特性は明らかにされておりませんでした。

 

研究の成果

本研究では3つのAgイオンをPt錯体ユニットで挟み込むことで、発光性多核サンドイッチ錯体の合成に成功しました。得られたサンドイッチ錯体は、その他のサンドイッチ錯体と共通する柔軟な構造変換や反応性を示しました。例えば、サンドイッチ構造を維持した異性化挙動を示すこと、サンドイッチ構造を維持した脱メタル化・メタル化反応を示すことが分かりました。

 

研究グループは、得られた多核サンドイッチ錯体が光学異性体の混合物であることに目をつけ、光学異性体の分離も達成しました。光学異性体とは、右手と左手のように元の形とその鏡像が重なり合わない構造体のことを言います。そして、光学異性体の主な物理的性質(融点・沸点・屈折率など)は同一ですが、光学特性(旋光度など)や生理活性のみが異なります。ドイツ・ドルトムント工科大学Guido H. Clever教授との国際共同研究によって、分離した光学異性体の光学特性を明らかにしました。
   Pt2Ag3  多核サンドイッチ錯体の光学異性体の分離とそれらの光学特性を明らかにしたのは本研究が世界初です。

この成果は、サンドイッチ錯体の歴史に新たな1ページを刻むとともに、新しいタイプの円偏光発光材料を開発する方法論を確立するものとなります。
   なお、本研究は、JSPS国際交流事業「ナノ空間を反応場・デバイスとして活用する物質科学国際拠点の構築」の一環として実施されました。

論文情報

掲載誌 : Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :Multinuclear Ag Clusters Sandwiched by Pt Complex Units: Fluxional Behavior and Chiral-at-Cluster Photoluminescence
著者名 :Shinnosuke Horiuchi,* Sangjoon Moon, Akitaka Ito, Jacopo Tessarolo, Eri Sakuda, Yasuhiro Arikawa, Guido. H. Clever, Keisuke Umakoshi*
DOI : 10.1002/anie.202101460
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202101460


本研究は以下のサポートを受けて実施されました。
・科研費(若手研究JP19K15589、基盤研究C JP20K05542、新学術領域研究「配位アシンメトリー」JP16H0659、JP19H04587、新学術領域研究「水圏機能材料」JP20H05231)

・JSPS国際交流事業「ナノ空間を反応場・デバイスとして活用する物質科学国際拠点の構築」(主担当研究者所属部局:長崎大学大学院工学研究科)

・公益財団法人 泉科学技術振興財団 研究助成

・一般財団法人 田中貴金属記念財団 研究助成金

本件に関するお問い合わせ先

工学研究科 物質科学部門 分子生命科学分野
教授 馬越啓介(ウマコシケイスケ)
E-mail:kumks*nagasaki-u.ac.jp  [*]を@に置き換えて送信ください。
Tel:095-819-2672