HOME > Research > 詳細

Research

ここから本文です。

紫雲膏プロジェクトー漢方製剤の国際化へ向けた新たな取り組み

〜エチオピアでの皮膚リーシュマニア症に対する紫雲膏の有効性に関する臨床試験〜

長崎大熱研・免疫遺伝学分野 平山謙二,・臨床開発学分野Juntra Karbwang
エチオピア・アーマーハンセン研究所 Oumer Ali, Abraham Aseffa
大草薬品

 【目的】
  マラリア、結核、エイズのような世界的に重要性の認識されている感染症以外にも、寄生蠕虫症や昆虫媒介性原虫症(リーシュマニア症、トリパノソーマ症)、デング熱といった顧みられない熱帯感染症の人類全体に及ぼす負荷量は癌や生活習慣病と同等かそれ以上であると考えられている。上記の感染症に共通しているのは、流行している地域が貧困問題を抱えており十分な保健衛生政策が実行できていないことである。我々の研究所ではこれらの地域の感染症対策に資する研究開発の技術移転や人材育成を行っている。2011年度からは新たな分野として臨床開発分野を立ち上げ、医薬品、診断薬、ワクチンなど現場で必要とされている新たな製品を創出しさらにこれを必要とする患者に届けることを目的として研究開発活動を開始した。

 【方法】
  熱帯医学研究所の臨床開発分野では、上記の熱帯感染症の制御に有効な医薬品の開発戦略の一つとして、生薬を中心とする伝承薬の活用を大きな柱として考えている。その理由として、漢方薬などの適用を拡大する目的であれば、開発に関する最も困難なステップである安全性試験の負担を大幅に軽減することができることや、一旦承認されれば比較的技術基盤の脆弱な途上国においても当事国が主体的に技術導入し一定の品質の製品を生産できる可能性が高いことなどが挙げられる。そこで研究所最初の臨床試験として、紫雲膏の皮膚リーシュマニア症治療薬としての開発研究を行うこととなった。現在生薬の臨床開発に関するガイドラインがWHOから出されているが、本研究においては、このガイドラインに沿った手順に従い、国際基準であるGCP(Good Clinical Practice)基準をふまえたプロトコールを作成した。日本の伝統的な漢方薬である紫雲膏の皮膚リーシュマニア症に対する有効性については、ペルーの新大陸型リーシュマニア症患者を対象に臨床試験が行われ、すでに医薬基盤研究所の渕野らが日本薬学会でその結果を報告している。

 【結果】
  2011年9月にアーマーハンセン研究所において最初の会合を開き、エチオピア側のスポンサーである研究所長と日本側のスポンサーである熱帯医学研究所免疫遺伝学分野の間で共同臨床試験をエチオピアの北部の流行地で行うことに合意した。トライアルサイトを訪問し地域のヘルスセンターの責任者に面会後、実際の患者あるいは住民に集まってもらい、趣旨の説明を現地の皮膚科専門医により行った。患者の居住地やヘルスポットと呼ばれる診療所の配置などを詳しく観察し、4週間の治療試験と2か月のフォローアップが十分可能であると判断した。ほとんどの紫雲膏に含まれる豚脂については宗教上の理由からあまり好ましくないことが判明した。

  研究所でさらに詳細な治療計画に関する打ち合わせを行い、以下のようなプロトコールを作成し、エチオピアおよび日本での倫理審査を申請した。

実施者: エチオピアアーマーハンセン研究所、長崎大学熱帯医学研究所

試験薬:  紫雲膏 Trade Name: Shiunko

有効成分:紫根エキス(むらさき)、当帰エキス

タイトル:  合併症のない限局型皮膚リーシュマニア患者の病変部への1日2回紫雲膏塗布による有効性の2重盲検ランダム化プラシボコントロール試験

臨床試験責任者:平山謙二

コーディネーター:Juntra Karbwang

主任研究者:Oumer Ali

実施施設: アンコバールヘルスセンター

  なお豚脂を使用しないゴマ油と蜜蝋だけを基剤としたGMPグレードの試験薬およびプラシーボはすべて大草薬品から無償でご提供いただいた。

  日本およびエチオピアの関係する倫理審査委員会及びエチオピア政府当局の承認を得たうえで、2013年4月10日に現地における臨床試験を開始した。

  早ければ9月にも試験結果が明らかになるものと期待できる。

  今後、漢方製剤の利点を生かし、より効率的な適用拡大を進めることで、途上国を中心に蔓延する感染症の新たな医薬品開発のモデルとなることが期待される。

  なおこの研究の実現に当たっては、独立行政法人医薬基盤研究所・薬用植物資源研究センタ-の渕野裕之主任研究員、国立医薬品食品衛生研究所生薬部の合田幸広部長、日本大学法学部大学院知的財産研究科の加藤浩教授、大草薬品株式会社の大草貴之社長、島名輝部長、"お茶の水女子大学生活環境教育研究センターの佐竹元吉教授、徳島文理大学香川薬学部、生薬・天然物化学教室関田節子教授、東京大学薬学部津谷喜一郎教授、北里大学北里生命科学研究所、山田陽城教授各氏の温かいご支援とご協力をいただいている。またこの研究の一部は長崎大学グローバルCOEプログラムの研究費により行われた。