HOME > Research > 詳細

Research

ここから本文です。

食事制限による寿命延長、抗老化作用におけるニューロペプチドYの機能解明

  長崎大学医学部・病理学の下川功教授、千葉卓哉准教授(現:早稲田大学人間科学学術院 早稲田大学応用脳科学研究所 教授)のグループは、食事制限による寿命延長、抗老化作用に関して、神経細胞が発現している代表的な神経ペプチドであるニューロペプチド Y(NPY)が、重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
  今までに、酵母から線虫などの下等生物から霊長類を含めて、自由に食べることができる餌の量の30%程度減らすと(カロリー制限)、寿命が延長することが認められています。その理由は、カロリー制限によって生活習慣病、悪性腫瘍、アルツハイマー病等の発症リスク抑制に起因すると考えられていますが、その分子機序は明らかにされていませんでした。
  今回の研究では、NPY遺伝子を欠損したマウス(NPY KO マウス)に対してカロリー制限を行っても、寿命延長が認められないことが明らかとなりました。その原因として、活性酸素によって誘導される酸化ストレスに対する抵抗性の減弱が考えられました。さらに、死因を解析したところ、NPY KO マウスでは、カロリー制限を施しているのにもかかわらず、悪性腫瘍の発生頻度上昇が認められました。この悪性腫瘍発生率上昇が NPY KO マウスの寿命と関連していることが考えられます。一方、NPYは摂食行動を促すホルモンとして認知されていますが、NPY KO マウスの摂食行動やエネルギー代謝には、異常は認められませんでした。従って、カロリー制限による寿命延長効果や抗老化作用には、NPYが必須であることがわかりました。
  これらの研究成果から、NPY量増加を促す薬やサプリメントを開発することは、老化に伴って発症率が増加する様々な疾患の治療薬になると期待されます。


図1. NPY KO マウス(Npy–/–)は, 食餌制限(DR)による寿命延長とストレス抵抗性の増強が失われている。

A. 雄マウスの生存曲線。Npy–/–-AL 対 WT-AL, p = 0.0736; WT-DR 対 WT-AL, p = 0.0028; Npy–/–-DR 対 Npy–/–-AL, p = 0.7151.

B. 雌マウスの生存曲線。Npy–/–-AL対WT-AL, p = 0.7648; WT-DR対WT-AL, p = 0.0004; Npy–/–-DR対Npy–/–-AL, p = 0.3852.

C. 3-ニトロプロピオン酸(3NPA)投与によって誘導される酸化ストレスに対する耐性の解析。Npy–/–-AL 対 WT-AL, p = 0.2772; WT-AL 対 WT-DR, p < 0.0001; Npy–/–-AL 対 Npy–/–-DR, p = 0.0612.