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ネズミとゾウの違いくらい大きくなる魚類の成長と生き残りに関する謎が明らかに

長崎大学水産学部附属練習船長崎丸の八木光晴(助教)、九州大学大学院生物資源環境科学府附属水産実験所の及川信(准教授)は、生まれた直後の非常に小さな魚の個体が体重にして約3500倍まで大きく成長する間に、酸素消費量として測定されたエネルギー代謝量を階段状に複数回、増大させていたことを発見しました。また、高成長の個体は時間的に早くエネルギー代謝量を増大させることができて、その結果、生き残りに有利である可能性も示されました。本成果は、持続可能な漁業資源の確保に向けた策定を考える上で意義深いものです。本研究成果は、11月20日午前10時(英国標準時)(日本時間:11月20日午後7時)に英科学誌ネイチャーの関連誌「Scientific Reports」に掲載されました[1]。

魚類は種にも依りますが、その多くは非常に小さな体サイズで生まれてきて、成長して大きくなります。この体サイズの変化は体重にして数千、数万倍以上で、ネズミとゾウほどの体重の差に匹敵します。このような魚類の成長の過程で、生きていくために必要な単位時間当たりのエネルギー量(エネルギー代謝量)がどのように変化していくのか?という問いは、「サイズの生物学」における根本的なテーマの1つで古くから謎に包まれていました。エネルギー代謝量は、その動物の寿命や行動、そして成長などに重大な影響を及ぼす因子です。今回、水産上有用な種であるヒラメを用いて、孵化直後の仔魚(体重0.00026g)から若魚(0.90g)に至るまでの間のエネルギー代謝量と体重の関係を詳細に調べた結果、成長に伴うエネルギー代謝量は特定の発育段階で階段状に計3回増大していることが明らかになりました。これは、体サイズの増加に伴う単位体重当たりのエネルギー代謝量の低下を防ぐためのメカニズムであることが示唆されます。エネルギー代謝量の増大現象は、過去に調べられたトラフグ[2]でも確認されていることから、多くの魚種に共通して生じている可能性があります。また、この増大現象は行動と形態的変化も伴っており、成長速度が速い個体は早くエネルギー代謝量を増大させることができて捕食者から捕食されるリスクを低減して生き残りに有利であることも示しています。これらの結果は、漁業資源の持続性や養殖技術の向上に役立つものと考えられます。

[1]    Mitsuharu Yagi & Shin Oikawa (2014) Ontogenetic phase shifts in metabolism in a flounder Paralichthys olivaceus. Scientific Reports 4:7135. doi: 10.1038/srep07135

[2]    Mitsuharu Yagi, Takeshi Kanda, Tatsusuke Takeda, Atsushi Ishimatsu & Shin Oikawa (2010) Ontogenetic phase shifts in metabolism: links to development and anti-predator adaptation. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 277: 2793-2801. doi: 10.1098/rspb.2010.0583