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ビクトリア湖における包括的な生態系及び水環境研究開発プロジェクト

2014年01月31日

【研究課題名】

 「ビクトリア湖における包括的な生態系及び水環境研究開発プロジェクト」
 英名:「Lake Victoria Comprehensive Ecosystem and Aquatic Environment Research for Development Project」

【参画機関】

 ケニア:マセノ大学、ケニア海洋水産研究所、モイ大学(責任官庁:ケニア環境・水・鉱産物資源省)
 日本:長崎大学工学部、水産学部など

【実施地域】

 キスムカウンテイー(郡)、ホーマベイカウンテイー(郡)

【実施期間】

 平成26年2月〜28年1月までの2年間

【総事業費】

 KES136,223,250.00(約1億6300万円、2014年1月時点)

【直接裨益効果】

 推定約30,000住民

【本プロジェクトの目的】

 ケニア西部に位置するアフリカ最大の湖、ビクトリア湖における生態系の保護・水環境の再生・水質向上を通じた、湖周辺住民の生活・健康水準の向上を目指した研究開発と実用化に向けた試行、行政への施策提言の土台作成にある。プロジェクトは下記に挙げる3つのコンポーネントで構成される。

コンポーネント1【現状調査・モニタリング】

 現在、種々の団体が実施しているビクトリア湖の環境保全に関するプロジェクトが提供している情報を分析・整理・見直すことで得られた知識と、高度な水質検査機器を使用した湖水の継続的な分析とモニタリングによって得られたデータを、同時並行で実施する他の二つのコンポーネントに供給する。

コンポーネント2【水工学部門】

 水質の向上と健全な生態系の維持のために資する技術の実用化。本プロジェクトでは持続的な運用を考慮し、@現地で発生する農業廃棄物であるトウモロコシの茎から作る炭を利用した湖水浄化フェンス、Aこの炭と安価で高性能な濾過膜を組み合わせて利用する濾過リサイクル装置、B太陽熱を利用するソーラー水蒸留ユニットの設置による水環境再生・水質向上、水の再利用等の実用化を目指す。

湖のあちこちで異常繁殖するホテイアオイ キスムの上水道施設を視察する板山教授の様子

コンポーネント3【水産部門】

@持続可能な漁業技術、A養殖技術、B漁獲物の鮮度保持・価値向上などについての研究開発を行い、実質的な漁獲量の増加及び漁獲物の保管管理の不備が引き起こす腐敗による出荷量の減少を防ぐノウハウの定着を目指す。

淡水魚のナイルパーチ ビクトリア湖そばのビタ。約4万人の漁業者のほとんどが、
帆や櫂を使う船で漁を行う

  ビクトリア湖周辺では、資源の乱開発と不十分な管理体制により環境面にかなりの負荷がかかった状態にあり、生物資源の持続性及びその質の低下が危惧されている。これまでににも、 ビクトリア湖環境マネジメントプログラムT(LVEMP T) などにより、状況を改善するための施策が講じられてきたが効果が上がっているとは言えない状況だ。本プロジェクトでは、コンポーネント1で、なぜ、多々提供される情報が目に見える結果に繋がらないかを検証し、水質汚染と生態系の変化をモニターし、本プロジェクトの有益性をあげることを目指す。また、コンポーネント2では、「多くの人が安全な水へアクセス出来る状況」にし、汚染された湖水から発生する感染症などによる疾病対策を実施する。さらに、コンポーネント3では、湖辺住民の生計基盤となっている漁業の収益性を高め、住民の生活を向上させることを狙う。

【研究課題の概要】

*ビクトリア湖とその資源は、湖周辺に住む約5000万人の人々の生計の源となっていると見込まれている。

*ビクトリア湖はアフリカで最大の内水面水産業(漁業)活動を支えており、ケニアの水産業の大半(95%)がビクトリア湖で行われている。湖岸住民の食糧と収入の源となっているだけでなく、水産物はケニアにおける重要な輸出品目となっている

*しかし、これらの資源は長期間にわたり乱開発され続けたことから、持続性が失われつつあり、湖岸住民にとって社会的かつ経済的な問題になり、生活の安定を脅かしている。

*漁獲量は減少し、生物の多様性は低下し、湖水の汚染と富栄養化が進行している。 一方、水産物捕獲後の流通過程における衛生管理がなされていないため、腐敗が早く、そのため販売量が有効に確保されないなど経済活動としての漁業の収益性は低い。

*この地方では、安全な飲料水の供給(水道普及率は10%)も依然として課題であり、湖岸住民は水に関する病気の危険に曝されている(高い乳幼児死亡率)。また約15%のエイズの高感染率の地域として知られている。

*これらの問題は、人口の増加及び生計を支える源であるビクトリア湖に対する過度の依存により、さらに悪化すると想定される。

*問題を改善すべく多くの取り組みが行われているものの、生態系の保護及び改善により湖岸住民の生活レベルを向上させるためには、更なる取り組みが必要とされている。このため、本プロジェクトの実施を要請することとなった。

【本プロジェクトの特徴】

日本の大学がアフリカの現地の大学と組んで行うプロジェクトで、「見返り資金」を活用する初めての事例でもある。単なる研究にとどまらず、住民の健康や生活に直接裨益する国際協力の形で開発事業を手掛けるのは初めての試みである。なお、本事業には当初の段階からウェルシィなど日本企業が一部参画する予定であるが、今後、日本の企業やNGOなどの本格参入が期待される。

【期待される結果】

*ビクトリア湖の水環境と生態系の現状の徹底した把握(コンポーネント1)。

*湖水浄化システムの活用により湖周辺の住民が安全な水源に常時アクセス可能となり、住血吸虫病等の感染率の高い水域での水汲みの必要がなくなるなど、水を介する感染症への罹患率を減少出来る(コンポーネント2)。

*安全な水の確保と地域の保健員による継続的な水に関する健康教育により、汚染された水による子供たちの間での下痢症などの病気が減少する(コンポーネント2)。

*安全な水にアクセスできることで、子供たちの水汲みなどの負担が減少し、通学率が向上する(コンポーネント2)

*水産業の収益性向上に向けた革新的で継続的な漁業技術(日本式定置網など)、養殖産業技術(日本の水産技術の活用)の導入、普及(コンポーネント3)。

*農業廃棄物であるトウモロコシの茎から作る炭と組合せて有効な水リサイクルを生み出す過程で、日本企業との共同事業化が可能(コンポーネント2)。

*マセノ大学と長崎大学が軸となって他の機関(ケニア海洋水産研究所,モイ大学)と共同で研究することにより、湖の環境保全や水産業発展のための知識共有基盤が構築される(全コンポーネント)。

*湖辺住民及びコミュニティの生活水準の向上(コンポーネント2、3)。

*水質の向上に関する試験機器を導入し、高度な設備をもった実験室を使用することにより、ケニアの環境科学分野の教育を促進(全コンポーネント)。

*本事業は単に研究のみを遂行するのではなく今後の日本の企業、NGOなどの事業参入が期待される。事業環境の整わない地域(電力資源等)での開発は、アフリカの他の地域でも利用できる。

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