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平成24年度長崎大学入学式学長告辞

2012年04月03日

 皆さん、はじめまして。長崎大学学長の片峰です。長崎大学の全ての教職員そして在学生を代表して申し上げます。平成24年度長崎大学の新入生の皆さん、入学おめでとう。長崎大学は君たちをこころより歓迎します。また、これまで新入生を育み見守ってこられたご列席のご家族の皆様にもお祝い申上げたいと思います。

 さあ、いよいよ新しい学びの生活が始まります。大学生活最初の日にあたり、本日は、皆さんに“大学で学ぶことの意味”について考えてほしいと思います。知識を学ぶだけなら、本を読み、インターネットを駆使すれば、大学でなくとも何処にいても学ぶことはできます。大学でしか学べないこと、大学での学びからしか得ることができないものとは、何なのでしょうか。考えてほしいのです。

 いま、この国も世界も大きく変わろうとしています。1年前のあの東日本大震災と福島原子力発電所の事故以来、私たち日本人の心に映るこの国の風景は大きく変わりました。大震災から1年がたちましたが、いまだ復興へ向けた力強い槌音は聞こえてきません。大きな困難を前にして、この国は立ち尽くしているかのようです。君たちも「このままで日本は大丈夫か?」と少なからず心配し始めているのではないでしょうか。大震災を契機に、この国が実は根源的な困難に遭遇していることに皆が気が付いたのだと思います。そして、この国が抱える困難は、世界の変化や世界が抱える問題と密接に関係しています。急速な構造転換を背景に世界は不安定化すると同時に、人類はかつて経験したことのない地球規模の多くの課題に直面しています。経済不況、環境破壊、食糧・エネルギー問題、核兵器の拡散、感染症……全て地球規模です。時代は、今までの常識や価値観では対応することのできない、新たな未知の領域に突入しています。新たな価値観の創出と社会システムの変革が待望されています。

 新しい時代を切り開くために、もちろん私たち大人も頑張ります。しかし主役を担うのは君たちの世代です。未来を担う君たち若者の本気度と目の輝きがこの国と世界の未来を左右します。若者の破天荒な想像力、柔軟な感性、そして疲れをしらない行動力や突破力こそが大きな力となります。社会は君たちに大きな期待をかけています。未曾有の時代を背負うことが君たち世代の運命であることを自覚してください。大きな荷物を背負うことに臆することなく、チャレンジしがいのある、そして自らが輝くことのできる未来に襟を正して向き合ってほしいと思います。

 大きく変化する社会に対応し、未知の未来にむけて君たちが準備することのできる学びの環境を提供するために、長崎大学は教育を大きく変えることを決断しました。そして、その最初の一歩を今年度踏み出します。君たちが、新しい教育を受ける最初の学生となります。

 新しい教育の目指すところは、国際的な現場でリーダーシップを発揮することのできる人材、グローバル人材の育成です。日本の国際競争力の相対的な低下と未曾有の円高の中で、日本企業は生き残りをかけて生産拠点を続々と海外へ移しています。そして、生産・流通のボーダーレス化が急速に進行しています。文系や技術系の卒業生の国内における活躍の余地が小さくなる一方で、海外には大きく活躍の場が拡がっています。そして、21世紀に私たち人類が向き合い克服すべき重要課題がすべて地球規模であることは先ほど述べた通りです。将来の活躍の場が国内であろうが海外であろうが、君たち日本の若者の夢と志は地球規模でなければなりません。

 長崎大学は、グローバル人材として活躍するために獲得してほしい4つの資質を、全学共有学士像として掲げました。大事なことは、それを達成する主体は君たち自身であることです。大学での学びは、高校までの学びとは異なります。キーワードは主体的な学びです。自らの頭で考え、大学が提供する新しいカリキュラムやキャンパス環境をそれぞれのやり方で活用して、個性輝くグローバル人材として成長してほしいのです。

 4つの長崎大学学士像を説明します。先ず第一に、研究者や専門職業人としての基盤的知識を有するひとであります。ご承知のとおり、長崎大学は医学、工学、教育、経済など実学系学部から構成されます。これら実学の蓄積により作られた長崎大学の個性・特長が、先の東日本大震災直後の支援活動において突出しました。全国の大学に先駆けて、震災発生2日後には、岩手県大槌町に長崎大学医療支援拠点の旗が立ち、3日目には支援物資を満載した水産学部の練習船「長崎丸」が緊急出航しました。そして現在も、原爆ヒバク影響研究の伝統を引き継ぐ本学教員が、福島県民の被曝健康リスク管理という世界が注目するきわめて重要な役割を果たそうとしています。これらの支援活動と、それを可能にした大学の個性は社会から高く評価されました。長崎大学の個性、それは「現場に強い大学、危機に強い大学、行動する大学」です。この伝統的個性を学び、将来それぞれの領域のエキスパートとして活躍するための基盤を身に着けてください。個々の知識や技術も大事ですが、何よりも、未知の世界におけるブレイクスルーの創造につながるそれぞれの学問領域における物事の考え方の習得に力を注いでください。

 長崎大学学士像の二つ目は、自ら学び、考え、主張し、行動変革する素養を有するひとであります。ジェネリック・スキルという言葉があります。ジェネリック・スキルとは、創造性、柔軟性、自立性、チームワーク力、コミュニケーション力、批判的思考力、自己管理力など、特定の枠組みを超えてさまざまの状況の下で適用できる高次のスキルのことをいいます。世界の若者に伍してがんばるために不可欠の力です。その中で最も大切なものとして、主体的に学ぶ力があります。机の上で勉強することに止まらず、自ら観察し、調べ、体験し、考え、決断し、そして実践することのできる力です。この力を育んでもらうために、長崎大学は授業の在り方を変えたいと思っています。教員から学生への一方的な知識の伝達ではなく、学生が主体的に参加する授業、課外での自学自修につながる主体的学びactive learningへの転換です。全ての授業を一挙に変えることはできませんが、最大の眼目を1年次の後期から開始されるモジュール科目に置きます。モジュールとは従来にない新しい考え方に基づく科目の集合体です。ある一つのテーマの下に構成された6つの科目を1年半にわたって受講してもらいますが、ここにactive learningを集中的に導入します。新しい試みになります。君たちと先生たちとの共同作業になるはずです。

 三つ目は、環境や多様性の意義が認識できるひとであります。いまや地球環境の重要性の理解なしには、地球と人類の持続可能な未来を語ることはできません。環境教育は、環境科学部というユニークな学部を擁する長崎大学の目玉です。そして、多様性です。地球にはきわめて多様な生物が存在します。人間も各人各様ですし、民族も、文化も、宗教も多様です。多様性の尊重とその連携が21世紀のキーワードになります。多様性を尊重し、いかにして異なる民族、文化、宗教がお互いを理解し連携することができるのか、人類に課せられた最大の課題です。異なる文化を理解するための手段が言語の共有です。世界共通言語としての英語の重要性に鑑み、長崎大学は今年度から英語教育を抜本的に改善し、入学から卒業までの一貫した英語教育体制を新たに構築します。そのために、言語教育研究センターを新設して専任の英語担当教員の数を倍増しました。教室のみでは英語は上達しません。在学中の海外留学の機会を大きく増やしていくつもりです。そして、24時間アクセス可能な英語自学自習のためのICT環境も充実させました。英語においてもキーワードは君たち自身の主体的学びなのです。

 長崎大学学士像の4つ目は、地球と地域社会及び将来世代に貢献する志を有するひとです。未来に向けた志、それこそが君たちが大学で獲得すべき最重要のものかもしれません。1年前、大震災直後の3月、首都圏の或る高校の校長先生は、卒業生に「君たちは、何のために大学へ行くのか?」と問いかけ、そして、一つの答えを象徴的な言葉で示しました。「海を見にいく自由を得るために」。高校まで、あるいは将来就職して家庭を持った後に比べて、大学生にははるかに多くの自分自身で管理できる自由な時間があります。例えば、頭の中で波の音が聴こえたら、海を見にいくことのできる自由です。そしてメッセージはこう続けます。「海に向かって立て。そして、自らが何者であるのか、自らの夢が何であるのかを、海に向かって問え」と。この言葉には一つの重要な真実が凝縮されています。そう、大学で学ぶ最重要の目的は、君たち一人ひとりが自分自身と向き合い、個性を自覚し、それを磨き、夢を育むことにあるのです。

 長崎大学は、多様な個性が触発しあい、切磋琢磨することのできる刺激的な出会いの空間、そしてそれぞれのやり方で脱皮し、自立し、夢を育み、志を立て、蓄積し、準備するための豊かな時間を、君たちに全力で提供します。皆さんには、その環境を存分に謳歌し活用してほしいと思います。

 最後に、新入生のみなさんの今後の大学生活が真に実りの多いものとなることを心より祈念して、お祝いと歓迎の言葉といたします。

長崎大学長
片峰 茂

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