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平成25年度長崎大学入学式学長告辞

2013年04月02日

  皆さん、はじめまして。長崎大学学長の片峰と申します。長崎大学全ての教職員そして在学生を代表して申上げます。平成25年度長崎大学新入生の皆さん、入学おめでとう。長崎大学は君たちをこころより歓迎します。これまで新入生を育み見守ってこられたご列席のご家族の皆様にもお祝い申上げたいと思います。

  さあ、いよいよ新しい学びの生活が始まります。大学での生活は高校までの生活とは一変します。いろいろな意味での自由があり、自分自身で管理できるより多くの時間があります。この自由をおおいにエンジョイしてください。ただし、自由をエンジョイすることは、楽をし、日常に流されることとは違います。自由の中で、受け身ではなく、自らの意思で主体的に多くのことを学び、体験し、チャレンジし、自立した社会人・知識人としての基盤的資質をたくさん身につけて欲しいのです。ある意味、高校までよりも厳しい日々となるかもしれません。しかし、実りの多いチャレンジとなるはずです。

  いま、日本も世界も大きく変わろうとしています。大変革期にあるといってよいでしょう。大学生活最初の日にあたり、平成25年4月という今日、今という時代の持つ意味を考えてください。そして、日本や世界の先行きに想像力を働かせ、君たち世代の歴史的役割を認識し、社会の期待の大きさを自覚してほしいのです。そのことを、これから4年あるいは6年間の大学での学びの糧としてほしいのです。

  20世紀後半、科学の驚異的な進展は人類に素晴らしい文明をもたらしました。とりわけ日本は、その恩恵を最も享受した国の一つであり、私たち日本人はこれまでにない平和と豊かさの中で生活ができるようになりました。しかし、1990年代初頭のバブル崩壊を機に日本経済は長期の停滞期に入り現在にいたっています。世界に目を転じても、21世紀に入り、中国・インドなどの人口大国が台頭するなか世界の権力構造は大きく変容し、経済不況、貧困、環境破壊、気候変容、食糧危機やエネルギー危機そして感染症のまん延など地球規模の多様かつ新しい課題が私たち人類の前に立ち現われています。そして、2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故です。あの日以来、私たち日本人の心に映るこの国の風景は大きく変わりました。大震災から2年がたちましたが、復興はいまだ思うにまかせません。放射能汚染で避難生活を余議なくされている福島原発隣接地域住民の皆さんの悔しさに思いをはせてみてください。

  このように多くの課題をかかえる現代社会は、君たちに何を問いかけているのでしょうか?日本経済や福島の復興も地球規模の環境問題・エネルギー問題も、今までの常識や価値観だけでは対応することは不可能です。時代は確実に、新たな未知の領域に突入しています。新たな価値観の創出と社会システムの変革と、それをもたらす人材が待望されています。

  新しい時代を切り開くために、もちろん私たち大人も頑張ります。しかし、いずれ主役を担うことになるのは君たち世代です。若者の破天荒な想像力、柔軟な感性、そして疲れをしらない行動力や突破力こそが力です。社会は君たちに大きな期待をかけています。未曾有の時代を背負うことが君たち世代の運命であることを自覚してください。大きな荷物を背負うことに臆することなく、チャレンジしがいのある、そして自らが輝くことのできる未来にまなじりを決して向き合ってほしいと思います。

  君たちが担うべき時代は、もうすぐそこまで来ています。近い将来、21世紀の人類のチャレンジの最先端に立ち奮闘する君たち自身の姿を、想像しイメージしてください。これからの大学での4年あるいは6年間は、その日のために蓄積し準備する大切な時間となります。

  いま、世界のグローバル化が進行し、国境をこえてヒト、モノ、カネが超高速で行き交う時代となりました。とくに、インターネットやSNSによりさまざまな組織や個人を複合的に繋ぐネットワークが地球上を覆いつくし、地球は急速に縮小しつつあります。日本の国際競争力が相対的に低下する中、日本企業は安価な労働力を求めて生産拠点を続々と海外へ移しています。日本の若者が国内で活躍できる余地が小さくなる一方で、海外には大きく活躍の場が拡がっています。そして、私たち人類が向き合い克服すべき重要課題がすべて地球規模であることは先ほど述べました。将来の活躍の場が何処であろうが、君たち日本の若者の夢と志は地球規模でなければなりません。

  このような時代の要請に基づき、長崎大学は教育の在り方を大きく変えつつあります。新しい教育の目指すところは、国際的に通用する人材、グローバル人材の育成です。しかも長崎大学ならではの、他とは一味違う、長崎大学ブランドのグローバル人材です。

  グローバル人材とは、世界のいかなる場所に在っても、言葉も文化背景も異なる多国籍の人々と良好な意思疎通を図り、信頼され、リーダーシップをとることができる人です。そのために必要な最低限の素養を大学で培ってほしいのです。

  先ず、多国籍チームの中で意思疎通を図るための最低条件は、言語の共有です。世界共通言語としての英語の持つ意味は決定的に重要です。長崎大学は昨年度から英語教育を抜本的に改善し、入学から卒業までの一貫した英語教育体制を新たに構築しつつあります。言語教育研究センターを新設して専任の英語担当教員の数を倍増しました。教室のみでは英語は上達しません。在学中の海外留学にも積極的にチャレンジしてください。そして、最大の仕掛けとして24時間アクセス可能な英語自学自習のためのICT環境を充実させました。CALLシステムといいます。目標を定め、このCALLシステムを利用して毎日30分でよいから勉強してください。継続は力なり。必ず力がつきます。英語においてもキーワードは君たち自身の主体的学びなのです。

  国際社会の現場で遭遇する様々の問題には、あらかじめ答が用意されているようなものはありませんし、答を教えてくれる先生もいません。君たち自身が、問題の本質を理解し、解決方策を編み出さなければなりません。そして、他国籍のチームメンバーの信頼と協力を得なければ、それを実現することはできません。そのような人間としての総合的な力のことをジェネリック・スキルといいます。創造性、柔軟性、自立性、チームワーク力、コミュニケーション力、批判的思考力、自己管理力など、さまざまの状況の下で適用できる力のことです。教室での受け身の授業だけでは、その力を養うことはできません。自ら調べ、考え、他と議論し、そして決断し、実践することの繰り返しの中で育まれます。この力を育んでもらうために、長崎大学は授業の在り方を変えようとしています。教員から学生への一方的な知識の伝達ではなく、学生が主体的に参加する授業、課外での自学自修につながる主体的学びactive learningへの転換です。そのためには、予習・復習が必須のものとして課せられることになるでしょうし、受け身のままでは授業から得るところはほとんどないでしょう。授業以外の時間に自ら学ぶこと、それを前提に主体的かつ積極的に授業に臨むことを、自らに課してほしいと思います。君たちにとっても、先生たちにとっても新しいチャレンジです。

  最後に、長崎大学ブランドについて話します。君たちは、数多(あまた)ある大学の中から長崎大学を選び、そして長崎に住み、長崎大学で学ぶことを決断しました。そのことも意味を持たなければならないのです。他大学にはない、長崎大学でしか学べないものがあります。それを身に着けてほしいのです。

  長崎大学はきわめて個性の強い大学です。それを、私は最近「現場に強い大学、危機に強い大学、行動する大学」と表現することにしています。医学、歯学、薬学、経済、教育、環境科学、工学、水産学という長年にわたる長崎大学の実学の系譜に基づく個性です。その個性が、2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故で突出しました。その直後からの全国に先駆けての被災地支援活動や、今に続く世界が注目する福島県民の被曝健康リスク管理への貢献です。そして来月には福島県川内村に支援拠点を設置し、村民の帰村支援を開始します。また、熱帯医学研究所の長年にわたる活動を基盤に2006年に設置した長崎大学ケニア拠点では、医学に加え歯学、工学、水産学の教員も活動を開始し、現地人スタッフを含めて100名を越す陣容を誇り、アフリカでは日本の大学最大の学術拠点に発展しています。これらに代表される「現場に強い大学、危機に強い大学,行動する大学」としての伝統的個性を学び、長崎大学ブランドのグローバル人材あるいは専門家としての基盤を身に着けてください。長崎大学ブランドは、社会に出たのち、君たちが、他とは差別化することのできる個性や存在感を発揮するための貴重な財産となるはずです。

  さあ、明日から長崎大学での君たちの新しい挑戦が始まります。君たちの前向きの努力や活動をサポートするために大学は最大限の努力を惜しみません。健闘を期待しています。最後に、全ての平成25年度入学生諸君にとって、これからの大学生活が、真に実りの多いものとなることを心より祈念して、お祝いと歓迎のごあいさつといたします。

 

平成25年4月2日
長崎大学長
片峰 茂

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