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平成26年度長崎大学入学式学長告辞

2014年04月02日

平成26年度長崎大学の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。長崎大学は君たちをこころより歓迎します。また、これまで新入生を育み見守ってこられたご列席のご家族の皆様にもお祝い申上げたいと思います。

さあ、長崎大学での新しい学びの生活が始まります。これからの大学生生活をおおいに楽しんでください。そして、多くのことを学び、体験し、色々な意味での付加価値をたくさん身につけてください。さまざまな課題や困難を抱えるこの国や世界の将来を担うのは、君たちです。これから卒業までの4年間あるいは6年間、将来に向けて、しっかりと蓄積し準備してください。

さて、今年から長崎大学に新しい学部が一つ加わりました。多文化社会学部。これまで長崎大学にはなかった人文社会学系の学部です。皆さんの中には、栄えある多文化社会学部第一期生99名がおられると思います。夢は大きく志は高いけれど、まだ実績ゼロの、新しい学部を選んでくれた決断に心より敬意を表したいと思います。

この多文化社会学部の新設をふくめて、今、長崎大学は教育の在り方を大きく変えようとしています。その目的を一言でいえば、「グローバル人材」の育成です。大学生としての最初の日にあたり、今日は「グローバル人材」の意味そしてそれが有すべき資質について考えてみてください。

現代の社会では、超スピードでグローバル化が進行しています。グローバル(global)は地球=グローブ(globe)の形容詞です。グローバルという単語が、本当に意味をもって使われるようになったのは、50年前に人類が初めて大気圏から脱出して宇宙に飛び出し、外側から地球を見た時からだといわれています。その時、青く輝く地球が、あまたある球形の星の中の一つであることが実感されたのです。もちろん、そこには私たちが地球儀や地図の上で見慣れた国と国の間の国境なんて見えるはずもありません。したがって、グローバルは、国と国の関係=inter-nationを意味する国際internationalとは区別されるべき言葉なのです。

実際、今や、ヒト・モノ・カネが国境をこえて超高速で行き交い、インターネットやSNSの情報ネットワークが地球上を覆い、地球は急速に縮小しつつあります。貧困、環境破壊、エネルギー、食糧、感染症問題など21世紀の人類が直面する課題も全て地球規模です。このようなボーダーレスな世界では、国籍や属する企業名や組織名よりも、一人ひとりの個人が主役となる全員参加型秩序によって、ものごとが進行していきます。そこで輝くために、君たちに要求されるのは、先ずは個性的であることです。そして、世界の何処に在っても、多様な人種や文化とコミュニケートし、力を合わせて働き、リーダーシップを発揮することのできる力、そして地球全体のこと、この全人類の持続的発展を考えることのできる力です。そのような資質を有する人間が「グローバル人材」と称されるのです。君たちの活躍の場が、海外ではなく国内であったとしても、「グローバル人材」としての資質が必要となる。そんな時代です。

それでは、大学で身に着けるべき「グローバル人材」としての基盤とは何なのでしょうか。それぞれの専門領域における知識や技術が重要であることはもちろんです。この点に関しては、各学部にお任せするとして、今日は、あらゆる領域の専門家が共通に有すべき基本的な資質についてお話ししたいと思います。

最初のキーワードは夢と志です。大学での生活は高校までとは一変します。大学生は社会から一人前の人間として見られます。学則の縛りもゆるやかです。要するに、大学生には大きな自由が与えられ、多くの自分自身で管理できる自由な時間があります。その自由の中で、自らが何者であるのか、他人にはない個性は何か、自らの夢が何なのかを探し続けてください。そして、グローバル化社会の中で将来自らは何を成すべきか、志を固めてほしいのです。そのために、長崎大学は、新しい出会いのチャンスに溢れた空間と、様々のチャレンジができる豊かな時間を、君たちに提供します。大切なことは、主人公は君たち自身であることです。自らの興味や気持ちに正直に、臆することなく未知へのチャレンジをくり返すことができる。大学とはそんな場所なのです。多くの出会いの中で様々な体験をし、異なる個性と触れ合い、刺激し合い、切磋琢磨することが、自らの個性を自覚し、夢や志を育むために最も有効な方法なのです。

二つ目のキーワードは、グローバル社会で生き抜くための基本的なスキル=人間としての力です。最大の課題は、異なる民族、文化、宗教がお互いを理解し連携することにあります。要求されるスキルはコミュニケーション力であり、そのための手段が言語の共有です。世界共通言語としての英語を学ぶ決定的な重要性がそこにあります。長崎大学では、達成目標を設定し、入学から卒業まで英語に取り組んでもらいます。教室のみでは英語は上達しません。24時間アクセス可能な英語自学自習のためのICT環境(CALLシステム)も充実させました。カリスマ予備校教師の安河内哲也先生も「英語は、頭脳労働ではない。スポーツである。」と言っています。スポーツの技量と同じように、英語も毎日の地道な「話し、聴き、読み、書く」訓練によってしか上達しません。毎日30分でよいから、自宅でCALLシステムと向き合ってください。努力は必ず実るはずです。

世界の現場に出た時、君たちが直面する課題には、正解があらかじめ準備されているものはありません。そのような課題を解決に導くために不可欠なのが、チームワーク力、批判的思考力、自己管理力など、さまざまの状況の下で適用できる汎用的な能力です。それは世界の若者に伍してがんばるために不可欠の力です。そして、そのような力を育むための前提となるのが、主体的に学ぶ力です。他人に強制されるのではなく、自ら観察し、調べ、体験し、自らの頭で考え、決断し、そして実践することのできる力です。この力を育んでもらうために、長崎大学は授業の在り方を大きく変えつつあります。教員から学生への一方的な知識の伝達ではなく、学生が主体的に参加する授業、課外での自学自修につながる主体的学びへの転換です。教員と学生が協働して作り上げる新しい学びです。君たちの積極的な取組が不可欠です。

さて、地球の現在そして未来のことを想像してみてください。21世紀に入り、地球や人類の未来に少し影がさしています。先進国では人口減少・老齢化が進行する一方で途上国を中心に世界人口は増え続けています。地球規模の環境破壊が進行し、気候変動による自然災害が多発しています。地球温暖化で急速に溶け出している北極の氷河をイメージしてみてください。食糧危機や感染症流行も深刻です。食べ物がなく飢え、感染症におかされても医療を施されることなく死んでゆく、アフリカの子供たちに思いをはせてください。そして、国内にあっては、これら地球規模課題のしわよせは地方に突出して現れます。東京には人があふれかえる一方で、地方では、過疎化により学校や病院が閉鎖され、何時間もかけて学校や病院にいかなければならない地域が増えています。東日本大震災の被災地では復興いまだ遠く、多くの人々が仮設住宅での避難生活を強いられ続けている現実を考えてみてください。

このような地球規模課題そして地域が抱える困難に、私たち人類はチャレンジし、それを克服しなければなりません。そして、その役割の中心を担うのは、無限の可能性を秘めた、君たち世代です。地球全体のこと、全人類の持続的発展、そして地方の再生を考えることのできる力を養ってください。

長崎大学は個性の強い大学です。日本の西端で海洋に囲まれた地理的環境や、原爆被ばくを挿む、江戸幕末以来の長い歴史に培われた実学の伝統に規定された個性です。そこには、他にはない長崎大学ならではの学びがあります。将来に向けて、しっかりと蓄積し準備し、長崎大学ならではの「グローバル人材」として成長してください。

最後に、新入生のみなさんの、大学生生活が実りの多いものであることを心よりお祈りして、お祝いと歓迎の言葉といたします。

 

平成26年4月2日
長崎大学長
片峰 茂

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