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平成26年度卒業証書・学位記授与式学長告辞

2015年03月25日

平成26年度長崎大学学部卒業生の皆さん、大学院修士・博士前期課程修了生の皆さん。卒業そして修了おめでとうございます。長崎大学すべての教職員を代表して、お祝い申し上げます。また、これまで学生たちを支え続けてこられましたご父兄の皆様にも、心よりの感謝とお慶びを申し上げたいと思います。

ほとんどの諸君とは、こうして直接お会いするのは、同じこの場所での入学式以来かもしれません。私は入学式では、表現は多少異なってもいつも、「長崎大学という空間と環境を存分に利用して、多くの出会いを果たし、たくさんのチャレンジをし、新しい自分を発見し、将来への志を立ててください」と申し上げています。そのような意味で、長崎大学で過ごした日々は君たちにとって満足し納得のいくものであったでしょうか。答えは、ひとそれぞれでしょうね。君たちはこれからも成長し続ける発展途上人なのですから、100%満足ということはありえないと思います。しかし、この間、多くのことを学び、自らの意思でチャレンジし、たくさんの悩みや感動を経験し、個性を磨いてきた皆さんは、間違いなく入学時のあの頃に比べて、自立した人格として一回りも二回りも大きく成長したはずです。今この場所で、長崎大学でのこれまでの時間の流れに思いを馳せ、自らの成長を実感してください。そして、明日からは、長崎大学での学びを糧に、それぞれの志を胸に、社会にあるいは新たな学びへと一歩を踏み出してください。

君たちが踏み入ろうとしている社会は、いま大きく変容しつつあります。我が国にあっては、現代は明治維新と第2次世界大戦敗戦以来の変革期ともいわれています。最大のキーワードは、グローバル化です。交通・輸送システムや情報科学の革命的進歩により、地球は機能的に縮小の一途を辿り、いまや政治的に国境は存在しても、経済や学術・教育の世界においては国境が消失しつつあります。グローバル化は、私たち人類にさらなる繁栄と豊かさをもたらし、科学技術の恩恵や富を地球の隅々まで行き渡らせる大きな可能性を秘めています。

一方で、大きな変革は様々な矛盾やリスクを孕んで進行していくことも事実です。今人類が直面しているエネルギー問題、食糧不足、気候変動に由来し多発する自然災害、エボラに代表される感染症の大流行、全てグローバル化と密接に関わる課題です。そして、理想とは逆に、グローバル化は富の極端な偏在をもたらしつつあります。富の偏在がもたらした格差や差別や貧困が、確実に、現代の最悪の不条理「イスラム国」の出現・拡大の素地になっています。日本国内にあっては、格差がヒト、モノ、カネの首都圏一極集中、一方での地方における極端な老齢化と人口減少、経済活動の低迷という形で顕れています。今後の、この国の最重要の課題が、いかにして地方を活性化し、新しい地方の未来を創生するかという点にあることは間違いありません。

そんな大変革期を担い、様ざまな矛盾や課題に立ち向かう主役は君たちの世代です。君たち若者の破天荒な想像力、柔軟な感性、疲れをしらない行動力や突破力こそが大きな力となります。君たちの活躍の舞台は、地域の、世界中のいたるところに準備されています。とてもやりがいのある時代です。がんばってください。

とくに、長崎を始め所謂地方を当面の主戦場に選んだ皆さんに申し上げます。グローバル化時代、地球規模の矛盾は地方・地域にこそ集約して顕れます。したがって、地域の課題の中にこそ地球規模課題解決へのブレークスルーのヒントが存在します。まさに、地域を掘り下げることで世界が見えてくる。そんな時代なのです。地域にあってこそ、グローバル化する世界に目を凝らし、文化や言語や宗教など世界の多様性を理解する、そんなグローバル・マインドを持ち続けてほしいと思います。

話は少し変わりますが、いま、歌手のさだ・まさしさん原作、大沢たかおさん主演、三池崇史監督による映画「風に立つライオン」が公開中です。アフリカのケニアと長崎が舞台となった、長崎大学と大変縁の深い映画です。本当に佳い映画です。簡単に紹介させてください。主人公島田航一郎は長崎大学熱帯医学研究所の医師です。幼いときに読んだシュバイツアー博士の伝記に触発されて医師の道を選んだ航一郎は、志を遂げるべく、恋人を長崎に残してアフリカの地に旅立ちます。内戦の最中の野戦病院に派遣された航一郎は、あまりに凄惨な医療現場に衝撃を受けながらも、そこに居残る決断をし、一人の元狙撃兵の黒人少年と出会います。心に深い傷を負った少年と航一郎の心の交流が始まりますが、やがて航一郎は内戦の余波で命を落とします。遺志を継いだ少年は医師として成長し、時を経て東日本大震災の被災地に赴き、津波で家族を失った日本人の少年と出会う。そんなストーリーです。

長崎大学は、50年も前から、アフリカでの医療活動、調査研究活動を先進的に継続してきました。その過程で、アフリカ赴任から帰国した一人の医師とさだ・まさしさんが40年前に出会い「風に立つライオン」という名曲が生まれ、やがて小説となり、そして映画になったという経緯があります。その意味では、半世紀にわたって積み重ねられてきた、アフリカに魅せられた長崎大学の多くの先人たちの思いや苦労が凝縮された映画であり、それが世に出ることは、大学にとってとても嬉しいことなのです。

この映画の重要なテーマは「心のバトン」です。アフリカの密林の中で現地の人々の医療に生涯を捧げたシュバイツアー博士の志が、「心のバトン」として主人公に引き継がれ、そして元狙撃兵の黒人少年に渡っていく。一人の人間が志を立て、その志に対して誠実に生き努力し続ければ、それは確実に「心のバトン」として誰かに引き継がれ、時空を超えて後世に影響力を行使し、よりよい未来につながっていくことを教えてくれています。

皆さんも、それぞれの場所でそれぞれの志を立て、志に誠実に努力を継続してください。きっと、素晴らしい出会いが待っています。この変革期、困難と向き合わざるを得ない時代であるからこそ、志の原点にすえるべきは、未来への思いやりであると、私は思います。地球やこの国の未来や、後に続く次世代に思いを馳せること。豊かで、平和な未来や、次世代が目を輝かせて頑張れる未来へ向けた志です。

映画「風に立つライオン」のもう一つの重要なモチーフは「風」です。タイトルは、風に向かってアフリカの大地に雄々しく立つ群れから外れた孤高の雄ライオンの姿をイメージしています。映画の中で、主人公は、風の中で朝焼けの地平線に向かって立ち、「がんばれ!がんばれ!」と自分自身を鼓舞し続けます。

アフリカの大地だけではなく如何なる場所でも風は吹きます。しかし、吹く風は同じではありません。それぞれの土地に吹く風にはそれぞれの匂いがあります。その土地の自然や街並み、その土地が持つ記憶や住む人々の人情や生活などが混然一体となって醸し出す匂いです。何処に在っても、その土地の風の匂いを嗅ぎ取ることのできる感性と感受性を持ち続けてください。風の匂いを感じながら、その土地に寄り添い、その土地に住む人々を愛すること。それが、よい仕事や実り多い人生につながります。

長崎にも、長崎大学にも風が吹いています。他の何処にもない、とても素敵な格別な匂いのする風です。長崎を離れる皆さん。この風の匂いを忘れないでください。時には思い出してほしいと思います。それが、君たちを勇気づけ、君たちの未来を切り拓くための糧になってくれれば、嬉しいかぎりです。

今年は原爆被ばく70周年です。被ばくの記憶は、長崎の風の匂いの大切な要素の一つです。被ばく大学で学んだ人間として、核なき世界への思いも忘れないで下さい。

さあ、君たちの未来は無限に拡がっています。顔を上げ、まなじりを決して、新しい栄光あるそれぞれの未来へ一歩を踏み出してください。最後に、卒業生、修了生の皆さんの今後のご健闘ご活躍を、心よりお祈りして、学長告辞といたします。

平成27年3月25日
長崎大学長
片峰 茂

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