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平成27年度長崎大学入学式学長告辞

2015年04月02日

皆さん、はじめまして。長崎大学学長の片峰と申します。春の薄曇りの柔らかな光の中で満開の桜が咲き誇っています。素晴らしい日になりました。平成27年度長崎大学新入生の皆さん、入学おめでとうございます。心からのお祝いを申し上げます。これまで新入生を手塩にかけ育み見守ってこられたご列席のご家族の皆様にもお慶びを申上げたいと思います。

新入生の皆さん。君たちは、数ある大学の中から長崎大学を選び、入学試験を突破し、今日の日を迎えられました。君たちの賢明な選択とこれまでの努力に敬意を表するとともに、長崎大学教職員一同、心より歓迎いたします。長崎大学は、コンパクトな3つのキャンパスが美しい国際都市長崎に溶け込んで立地する日本を代表する地方国立大学です。他にはない個性を有する素晴らしい大学です。君たちに、新しい出会いのチャンスに溢れた空間と、様々のチャレンジができる豊かな時間を提供します。長崎大学という空間や環境を最大限に利用し、おおいに大学生生活をエンジョイし、様々の出会いを果たし、新たな自分を発見し、自立し、そして大きく成長してほしいと思います。

さて、君たちが生きていく21世紀は、特別な時代です。いま、この国も世界も未曾有の変革期にあるからです。20世紀の科学技術革命は、これまでにない豊かで便利な文明社会を私たち人類にもたらしました。とくに交通手段や情報科学の革命的進歩により、いまや政治的に国境は存在しても、経済や科学・教育の世界においては国境が消失しつつあります。グローバル化です。それは、科学技術の恩恵や富を地球の隅々にまで行き渡らせる大きな可能性を秘めています。もう一つ、20世紀がもたらしたものが人口の爆発的増加です。20世紀初頭に16億人であった世界人口はこの100年間で4倍に増え現時点で70億人を突破しています。限られた地球の資源や食糧生産では賄いきれないスピードで人口が増えており、資源や食糧の獲得競争が起きています。そして、グローバル化が、理想とは逆に、富の極端な偏在をもたらしつつあります。富の偏在がもたらした格差や差別や貧困が、現代の最悪の不条理「イスラム国」の出現・拡大の素地になっています。一方、人口減少局面に入った日本国内にあっては、格差がヒト、モノ、カネの首都圏一極集中、一方での地方における極端な老齢化と人口減少、経済活動の低迷という形で顕れています。矛盾を抱えながら社会はかつてないスピードで変容しつつあります。グローバル化と人口増加の中で、地球と人類、そしてこの日本という国のよりよき未来を如何にして切り拓いていくのか。恐らく今までの常識や価値観では対応することのできない、新たな知恵が要求される時代に突入しつつあります。

そんな時代を担い、新しい未来を切り開く主役となるのは君たちです。とてもやりがいのある活躍の舞台が待っています。その日に向けて、長崎大学生としての4年間あるいは6年間、院生は2年間、多くのことを学び、吸収し、個性を磨き、蓄積し準備してください。

今日は、これからの大学での学びの糧として、二つの言葉を胸に刻んでほしいと思います。一つは、イノベーションです。直訳すれば、変革、変えること、新しいものを作り出すこととなります。日本では、新しい技術や製品の発明と狭い意味で使われることが多いのですが、本来はもっと広く、金儲けに繋がろうが繋がるまいが、新しいアイデアに基づき社会的意義のある新たな価値を創造し、社会に大きな変化や進歩をもたらすことを意味します。大きな変革期にある今ほど、真の意味でのイノベーションが待望されている時代はないと思います。

もう一つの言葉は、アントレプレナーです。自ら事業や会社を興す起業家の意味です。しかし、もっと広くとらえると、アントレプレナーとは、目の前の問題や課題をチャンスととらえ、チャレンジし、イノベーションを生み出す人間ということができます。指紋や人相で個人を識別する生体認証システムを開発したことで知られる世界的に有名な若きアントレプレナー、日系3世アメリカ人の齋藤ウイリアムズさんは、「アントレプレナーとは、現代の人生の冒険家のことである」と言っています。リスクを恐れず、自らの夢に人生をかけることのできる冒険家こそが、イノベーションを創出することができるのかもしれません。

ただ、多様化し複雑化する現代において、課題に向き合いイノベーションをもたらすには、一人だけの力には限界があります。夢や目標を共有した人間の集まり=チームが大きな力を発揮します。しかも、同質の人間の集まりではなく、異なる価値観、異なる才能、異なる文化的背景を持つ人間がチームを作り、アイデアを出し合い、議論し、助け合う中からイノベーションが生まれます。アントレプレナーとは、善きチームの一員でもあるべきなのです。斎藤ウイリアムズさんは、「日本人は個人としては優秀であるが、よいチームをつくることが下手である」言っています。そのことが、イノベーションやアントレプレナー輩出という観点からは、日本が世界の後塵を拝しているといわれる大きな原因になっているというわけです。

君たちには、アントレプレナーとしてイノベーションを担うための資質を、長崎大学でぜひ身に着けてほしいと思います。では、その資質とは何なのでしょうか。それぞれの専門領域における知識や技術が重要であることはもちろんですが、それに加えて、あらゆる領域の専門家が共通に身に着けるべき基盤的な資質があります。

先ず、あらかじめ解答の準備されていない問題に向き合い、自ら学び、論理的に考え、解決に導く力です。そして、チームの中で、自分の考えをはっきりと主張できるとともに、他のチームメンバーとコミュニケートし、その信頼と協力を得ることのできる態度です。単に教えてもらう受け身の学びだけでは、その力を養うことはできません。自ら調べ、考え、他と議論し、そして決断し、実践する訓練の繰り返しの中から育まれます。この力を育んでもらうために、いま、長崎大学は授業の在り方を大きく変えています。新しい学びの形は、教員から学生への一方的な知識の伝達ではなく、学生が主体的に参加する授業、課外での自学自修につながる主体的学びactive learningです。長崎大学の授業では、学生自身が発表し、議論し、教え合うことが要求されます。そのためには、予習・復習が必須のものとして課せられます。自ら学ぶこと、それを前提に主体的かつ積極的に授業に臨んでほしいと思います。教室以外にも、課外活動や、学外の市井の中にも、そのような訓練の場がいくらでもあるはずです。躊躇することなく勇気をもって、たくさんの冒険を試みてください。

グローバル化の時代、当然のごとく、君たちは多国籍のチームの一員となることが多くなります。そこでは、文化、言語、宗教を異にする仲間を理解し、本音で議論し、協働することのできる資質が不可欠となります。そして、世界共通言語としての英語の持つ意味は決定的に重要です。教室のみでは英語は上達しません。24時間アクセス可能な英語自学自習のためのICTシステムを完備してあります。毎日30分でよいから利用してください。できれば在学中の海外留学にも積極的にチャレンジしてください。英語においてもキーワードは君たち自身の主体的学びなのです。

さて、長崎は本当にいい街です。丘に登って見下ろしても、港の入口から水平目線で眺めても、これ程美しい街はありません。西の海の彼方には遠く大陸をイメージすることができます。街には、心優しき人々が住み、豊かな食があり、そして江戸時代の出島や原爆被ばくなど鮮烈な記憶が息づいています。そんな長崎、そしてそこに建つ長崎大学に吹く風には特別な匂いや色があります。長崎大学は、とても個性的な大学です。各学部・研究科にはそれぞれ特色ある学びが準備されています。長崎大学でしか学べないもの、他大学にはないものを身につけることも、君たちが長崎大学で学ぶ重要な意味の一つです。それは必ず、君たちの未来を切り拓くための糧となります。長崎に吹く風を五感で感じながら、日々学び、挑戦し続ける中で、自然にそれは養われるはずです。がんばってください。

最後に、全ての平成27年度入学生諸君にとって、これからの大学生活が、楽しく、エキサイティングで、そして実りの多いものとなることを心より祈念して、学長告辞といたします。



平成27年4月2日
長崎大学長
片峰 茂

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