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平成22年度長崎大学卒業式学長告辞〜特別な卒業式〜

2011年03月25日

平成22年度長崎大学卒業生の皆さん,長崎大学の全ての教職員そして在学生を代表して申し上げます。卒業おめでとう。ご列席のご家族の皆様にも,卒業生たちへのこれまでのご支援に感謝申し上げるとともに,おめでとうございますと申し上げたいと思います。 

君たちは、大学生活の4年間あるいは6年間で、多くの出会いを体験し、学び、そして悩み、自立するための人間力を大きく育んできたに違いありません。入学式の時と同じこの会場で、一回りも二回りも大きくなった自分自身を、今、実感してください。 

例年であれば、日本中で若者たちが学び舎を巣立ち、将来への希望に胸ふくらませる春。桜の花も綻(ほころ)び、日本が最も輝く季節です。しかし、今年は違います。日本中を悲しみと、緊張感と、不安感が覆っています。3月11日、マグニチュード9.0、観測史上世界最大級の揺れと津波が、東日本の広い範囲を襲いました。TVで繰り返し流される跡形もなく破壊されつくされた街を丘の上から映した映像は、長崎大学が忘れてはならない悲しい記憶、66年前のあの原子野の光景と重なるものでありました。そして、東京電力福島第一原子力発電所において重篤な事故が発生し、周辺地域の放射能汚染とともに、日本の電力供給体制の破綻が強く懸念される事態に立ち至っています。人類が蓄積してきた科学や知恵が、自然の力の前にはいかにちっぽけなものであるのかを思い知らされました。そして、科学者は自然に対してあくまで謙虚であるべきことを再認識させられました。

君たちには、このような状況の下での卒業式を、ある意味運命として受け止めてほしいと思います。自立した社会人、知識人としての君たちのこれからの人生の原点として、いま被災地で、そして日本で起こっていることを見届け、心に焼き付けてください。不幸にもこの震災で亡くなられた方々の無念や、最愛の家族を奪われた遺族の皆様の悲しみ、福島第一原子力発電所の安全確保に携わる消防隊員や自衛隊員、東京電力作業員の皆さんの決死の覚悟に思いを馳せてください。これから被災地や日本という国を襲うであろう困難を正面から見据えてください。そして、自分自身が、何ができるのか何をなすべきなのかを真剣に考えてください。この中の多くの諸君が、義捐金の募金のために街中に立ったと聞いています。いくつかの学部は、卒業生自らの判断で謝恩会を自粛し、積み立てた予算を義捐金として寄付したと伺いました。その決断と行動に、こころより敬意を表します。 

長崎大学も考え、決断しました。すでに長崎大学の持ち味を最大限に生かして、支援活動を開始しました。震災後直ちに、本学の緊急医療援助や緊急被ばく医療の専門家チームが出動し、岩手県と福島県に拠点を構え、現在も支援活動を展開中です。水産学部の練習船「長崎丸」は14日に緊急出帆し、満載した緊急援助物資を福島県小名浜港と岩手県宮古港にいち早く届け、一昨日帰還したばかりです。

今回のミッションを終え、日本海経由で長崎への帰途についた長崎丸から見る津軽海峡の朝日はとても美しかったそうです。乗船した水産学部の萩原篤志教授は航海日誌に、次のように記されています。「津軽海峡から見える朝日がなんとも美しく、地震と津波をもたらした同じ惑星の仕業なのだろうかと虚しささえ感じます」。萩原教授が見たと同じ朝日を、三陸海岸の被災地の方々は、どのような気持ちで眺めておられたのでしょうか。胸がえぐられます。陽がまた昇り、被災地の人々の笑顔を明るく照らす日が、一日も早く訪れることを心より祈りたいと思います。

世界に目を向けると、北アフリカのリビアで新たな戦争が始まっています。その端緒となった中東・北アフリカ諸国での流血を伴う民主化運動の連鎖を見ても、世界の構造転換が音を立てて進みつつあることがわかります。中国、インド、ブラジルなどの人口大国の台頭の一方で、これまで絶対的なパワーで世界の警察としての機能を担ってきた米国の力が急速に低下しています。米国による一元支配が崩れ、世界は多極化、無極化の時代を迎えています。歯止めを失った世界は不安定化しつつあります。

日本は1990年代初頭のバブル崩壊以降、政治も経済も混迷したままです。古来,日本における新しい文化は常に外来文化でした。遣隋使・遣唐使の時代の大陸文化,中世ルネサンス以降の西洋文化、いずれもそうです。明治維新の後は欧米に学び、その背中を必死で追いかけ、先進国の仲間入りを果たしました。第二次世界大戦後の驚異的経済復興もまた然りです。その時代その時代の世界標準(global standard)を学びつづけること,それこそが日本人の歴史であったと言ってよいのかもしれません。世界が多極化、無極化の時代を迎え、この国はいま、目指すべき目標を見失い、立ち尽くしているかのようです。

世界でも、日本でも、既存のシステムや価値観が完全に破綻しつつあることを痛感させられます。今や時代は、新たな未知の領域に突入しようとしているのです。次代を担う君たち若者には未知の領域に踏み込む勇気と新しい価値観を創造する能力が要求されます。そのために最も重要な力、それは“想像力”であると私は思います。被災地で、また世界で今何が起こっているのか、そして今後何が起ころうとしているのか、氾濫する情報の中から正確に読み取る、理解のための想像力。この後、被災地や日本、世界は何を必要としているのか、その中で自分は何をなすべきなのか、決断するための想像力。この未来へ向けた想像力は君たちの夢の醸成にもつながります。このような想像力こそが、決断し行動するための真の勇気や新しい価値観の創生の源泉となるのです。相対性理論の発見者アインシュタインも、「想像力は知識よりも重要である。知識には限界があるが、想像力は世界を包み込むことさえできるからである。」と云っています。

君たちは大学で、多くのことを学び,そして多くの付加価値を身につけたにちがいありません。専門的知識も大切ですが,君たちが大学で身につけたものの中でもっとも大事なものは「学びの技法」,「受身ではなく,自ら学ぶための方法論」であると思います。「自ら学ぶこと」とは単に机の上で勉強することに止まりません。自ら観察し,調べ,体験し,考え,決断し,そして実践する,これら一連のプロセスを全て含みます。想像力はその中でも、きわめて重要な位置を占めています。多くの本を読み、レポートや論文を書く。文字というそれ自体は記号の羅列である文章を読み且つ書くという作業は、文字を通して事象を自らの頭脳の中に具現化するという“想像”のプロセスそのものです。また、実験や調査活動により得られた事実を積み上げて新しいアイデアや価値観を創出する作業、あるいは患者さんの訴えや所見から病気の診断を導く作業、これらも想像力抜きには出来ないものです。そうです、大学での学びを通して、君たちは想像力を知らず知らずの間に養ってきたのです。自らの想像力に自信を持ってください。そして、卒業して後も,想像力にさらに磨きをかけ,新たな未知の時代を切り拓いてほしいと思います。

既存のシステムが崩壊し、世界が不安定化すると同時に、人類は,かつて経験したことのない地球規模の新たな危機に直面しています。経済不況,環境破壊,食糧・エネルギー問題,感染症……全て地球規模です。このような危機を克服し,次世代以降も持続可能な世界を展望するために,私たち人類には,自らの意識や社会 のシステムを大きく変えること,変わることが要求されています。世界も日本も,歴史的な変革期の真只中にあるといってよいでしょう。こんな大変革期には,若者たちの破天荒な想像力にくわえて、柔軟な感性、そして疲れをしらない行動力や突破力こそが大きな力となります。君たちの出番がもうすぐそこまで来ているのです。君たちの活躍の舞台は、世界中のいたるところに準備されています。背筋を伸ばし、胸を大きく張り、そして眦(まなじり)を決して、未知なる未来へと歩み出してほしいと思います。

昨年、長崎も舞台となった福山雅治主演のNHK大河ドラマ「龍馬伝」が1年間にわたって放映されましたが、私はその中で大変印象に残る一つの台詞(せりふ)と出会いました。坂本龍馬は、日本初の海軍の創設を夢見て一時期神戸の海軍操練所という学校で学びました。その操練所が幕府によって廃校措置となったとき、操練所の校長先生であった武田鉄也扮する勝隣太郎が龍馬ら弟子たちに語った別れの言葉です。最後に、その言葉を贈って君たちへの餞(はなむけ)としたいと思います。「君たちは、私の希望である。」そして「君たちは、長崎大学の希望である。」

皆さん、どうぞがんばってください。健闘をお祈りします。

平成23年3月25日
長崎大学長
片峰 茂

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